DREAM MATCH イベントインタビュー
SPECIAL[2016.09.29]
今年40周年を迎えた東京の老舗ライブハウス新宿LOFTが放つアニバーサリーイベント40YEARS×40LIVESのうち、『SHINJUKU LOFT 40TH ANNIVERSARY MUSIC FES DREAM MATCH 2016』が9月25日に開催されました。企画者はロフトの名物ブッカー、樋口寛子さん。歌とメロディが良いアーティストをコンセプトにしたというこのFES、主旨やこの企画に込めた気持ちを伺いました。
●よろしくお願いします。このフェスの構想はいつぐらいからあったんですか?
樋口:数年前から、やれたら良いなという、漠然としたビジョンがあって。それくらい前から計画して動いていただけに、今はもうその月になったんだ、という感じですね。あっと言う間でした。
●はい、ロフトの40周年で、という訳じゃなく、元々企画があって、それを40周年に沿わせたんですか。
樋口:そうですね。どうせなら40周年にあわせたいなと思っていました。去年から40周年に向けて動いていたから、少なくとも3、4年前から考えてましたね。
●最初はフェスをしたい、とかからですか?
樋口:フェスをやりたいっていうのはありました。ただ、俗に言うとても大きな野外の会場を借りてやるというよりかは、背伸びせず身の丈にあった形でやれたら良いなとは思っていました。新宿ロフトが40周年だし、ロフトでずっと働いてきたからこそ、私が関わってきたバンドさんで有名になっていったアーティストさんもいくつかいらっしゃるので、ご縁がある方達を集めて、ちょっと大きなところでやれたら、それがフェスという形でやれたら良いなと漠然と思っていました。
●集大成じゃないけど、40周年という良い区切りでもあるし?
樋口:そう、だから自分のこれまでのキャリアをここで一旦〆るっていう気は無いし、またここから突き進むくらいの気持ちで作りました。
●この企画を立てた時、コンセプトは何かありましたか?
樋口:そうですね・・ただ縁があった人を寄せ集めたって訳ではなくて、単純に歌とメロディがしっかりした方達を集めてやりたいっていうところだけですね。別に歌ものシーンを盛り上げたいとか全然思っていなくて、私は自分の音楽を好きになったきっかけである、歌とメロディっていう物を形にしたかっただけなんです。歌とメロディがちゃんと自分の中で筋が通ってる方達を集めたい、と。
●樋口さんと言えば関わりのあるバンドさんて凄く多いと思うんですよ。歌とメロディはありきで、どういう風に出演者を決めていったのかなと。
樋口:もし自分がこの仕事を辞めても、この人の音楽だったら聴いていられるなと思う人達を集めたつもりですね。この仕事をしているからこそ、幅広く聴かなくちゃいけないとか、ちょっと義務的な所はどうしてもないと仕事にならないので、色々ノンジャンルで聴くようにして今の自分がいるんですけど、でも、こういうイベントをやるならば・・それはロフトでイベントを組む時にも気にかけてる事でもあるんですけど、いつかこの仕事を辞める事があったとしても、普通にCDを買ったり、ワンマンライブを楽しみにしているっていう風に、そういう気持ちに戻れる人っていうのは凄く大事にしています。どうせやるならそういう並びにしたいなと思っています。普段ロフトでやってることに満足しているので、本当はここ(ロフト)でやれることで十分なんですけど、ここから飛び出て企画するっていう事は、自分の中でそういう方達に出てもらいたいなって。しかも新宿ロフト40周年だし、というのがとても大きかったですね。
●じゃあ今回の出演者の皆さんは特別感のある?
樋口:はい、ありますね。それぞれ「良いな」って思った気持ちだったり、自分が普通にCD買ってたりする・・CD頂く事も多いですけど、リリースはお祝いだから自分で買うので、そういう方達なんです。流行を追っかけるとか、私には合わない。会社からやって良いよって許可が出たなら、自分が責任持てる範囲で好きにやろうっていう、結果がこうなりましたね。あと、あんまり流行ってるバンドは呼びたくないっていうのはありました(笑)。イベントタイトルが違うだけで何処にでも出てるような有名人を呼ぶような物にはしたくないって言う気持ちは強くありました。
●ロフトグループという事で相談もされたんですか?
樋口:勿論しました。相談して、社長から「それだけやりたい気持ちがあるならやって良いよ」ってお墨付きをもらったので、じゃあまだ何も決まってないけれど、こんなチャレンジ出来る事、この先の人生でそうそう無いだろうなって思ったから、やる!って決めて。
●ちなみにこれ樋口さんだけで動いてるんですか?
樋口:私一人ですね、完全に。運営周りはイベンターさんにお願いしてますけど、ブッキングは全部私ですね。各バンドさんとお話させて貰ってるのは自分が責任持てる範囲で、だからバタバタしてますね(笑)。とはいえ通常公演も同時進行なので。
●それはかなり忙しいですよね。去年からずっとですか。
樋口:はい。40周年イヤーが今年、2016年だったら、私の中では2015年から2016年に向けてっていうのをずっと丁寧に、2015年2月からイベントをやってきました。9/25が一つのピークだとしたら、もう2年くらいかけてやってるような感じですね。去年の40周年に向けてのイベントでも写真を撮り溜めてたので、それを集めたライブ写真展とかも新店舗のロフト9でやりました。より色々盛り上げていけたらいいなと思ってますね。
●はい、『DREAM MATCH』というイベントタイトルはいつぐらいに決まってたんですか?
樋口:去年の末から今年頭くらいです。元々2年くらい前から、ロフトではキャパオーバーしてるようなアーティストの2マンが決まった時とかにこの『DREAM MATCH』というタイトルでイベントをやってたので、凄い良いタイトルだなと思っていたので、それを引用したいなと思って、今回付けました。夢の競演じゃないですけど、こういう公演があるからこそのタイトルなので。
●出演者についてのコメントをお願いします。50音順に、『藍坊主』さんから
樋口:そもそも出会ったのはここ数年ですけど、その中で距離が縮まったバンドで。以前から藍坊主自体の活躍は知っていましたけど、ここ数年で結構自分が担当しているイベントでご一緒になる機会が多くて。それで凄い良いバンドだな、凄い良い曲歌うなって、と本当に印象的で。メンバーさんともお話しする機会がここ数年多かったので。人となりもバンドの在り方も分かったので、ご縁があれば良いなと思ってお願いしました。
●では『音速ライン』
樋口:以前自分が担当していたインディーズレーベルであったりとか、メジャーデビュー1年目までマネージメントという形で私が初めてマネージャーという事をやらせてもらったバンドさんで、今でもとても縁の深いバンドさんなんですけど、以前から一緒になって大きくなっていった、成長していけたバンドさんは、絶対こういうフェスをやるなら出て貰いたいっていう気持ちがあったので。お互い10年以上現役で、10年経ってもこうやってやれてるっていう事を、ちゃんと外に打ち出したかったっていう気持ちもあります。
●お互い現役でしかも仲が良好のままいれるってやっぱり大きいですよね。
樋口:大きいと思いますね。やっぱり中々、そういう人って限られてるから、今回こういう形で出てもらえて良かったですね。
●次は『SAKANAMON』を。
樋口:比較的出演者の中でも若手と言われる部類のバンドなんですけど、SAKANAMONも、ロフトでお客さんが数人くらいしか居なかった頃からブッキングで出てもらって応援していた関係性があったので。ロフトで企画してソールドアウト公演とか、そういうバンドも呼びたいと思っていたので、その中のバンドの一つとして。凄く仲良くさせてもらってるところもあり、お願いしましたね。
●こちらも古くからの関係性ですね、『スキマスイッチ』さん。
樋口:それこそ15年くらい前にロフトのBarステージで出て貰ったりとかしていたご縁ですね。当時スキマスイッチの『君の話』っていう凄い好きな曲があって、それが聴きたいが為に呼んでたところは正直ありました。ただ当時から上手だったし、本当に彼らのライブを見たいと言うか、彼らの曲が聴きたくて。曲がブッキングを作らせるというか・・今回は基本的にそういう人達を呼んでるんですけど、曲が聴きたいからブッキングにかきたてられる。それは他のブッカーさんには無い発想かも知れません。完全に曲先で入ってるんで、音楽という物に。だから私の中でそれを代表するような2人ですね。
●はい、『堕落モーションFOLK2』を。
樋口:私、たまたま日比谷野外音楽堂に違う方を目当てに見に行って、その時に見た中で正直一番良かったんですよ(笑)。
●(笑)。
樋口:その時ミニステージもあって、2ステージでやってて、メインと別にアコースティック用の小さいステージが組まれていて、そこで歌ってらしたんですけど、凄く良かったんですよ。その前後くらいに堕落さんからロフトでアコースティック企画をやりたいっていう相談もあって、見せて貰った時にやっぱり良いなと思って。去年くらいから自分の企画に出てもらう機会もあって、バンドのHINTOだったり、堕落だったり、ここ数年であったので。是非出て欲しいと思ったのでお願いしました。
●『つじあやの』さん。
樋口:あやのちゃんは・・。
●かなり古くからのお付き合いですよね。
樋口:関係性は一番古いですね。この中で一番古いかもしれない。あやのちゃんは自分がロフトで初めて企画をやった時の出演者なんです。本当に初めてやったのは17年前とかなので、一番昔から仲良くさせてもらってるミュージシャンの一人かな。そういう人は絶対呼びたいと思ってたので、あやのちゃんをこういう形で呼べて、本当に長く続けてきて良かったなって思いますね。
●『成山剛(sleepy.ab)』
樋口:成山さんもここ数年ですね、お話させていただく機会があったのは。ここ数年、自分の企画には一年に何回も出てもらってるかもしれない。バンドであり、ソロでもあり、成山内というユニットもやってて。成山さんの作るメロディだったり、声が本当に素晴らしくて、大好きですね。だからこうやって出てもらえて本当に良かったなって思います。
●『ヒグチアイ』
樋口:ヒグチアイちゃんも、曲がかなり良くて、アイちゃんのライブの度に涙腺が緩みます。弾き語りは特に。何でこんなに歌で訴えかける物があるんだろうか?っていう、本当、ここ最近一番好きです。何か、仕事柄「お勧めのバンド居ますか?」ってよく聞かれますけど、アイちゃんは絶対言います。
●『Brian the Sun』
樋口:ここもお客さん数人時代からのお付き合いがあって、彼らもロフトで企画やったりワンマンやったり、凄い深い関係でお仕事させてもらってますね。応援しています。関西のバンド、色々いっぱい出てもらってますけど、突破口となったのはBrian the Sunですね、私の中では。彼等が始まりで、後から色んな関西のバンドさんが出てくださるようになった気がします。
●『メレンゲ』
樋口:メレンゲは音速ラインと近くて、インディーズ時代からの付き合いだったりして、世代もほぼ同世代というのもあり、同級生みたいなところはありますね(笑)。良い意味で彼らには負けたくないなって思っています。私も長くこの仕事をやっていきたいし、そういう意味では刺激になってますね。
●こうやってお話聞いていると本当に思い入れがあるバンドさんばっかりですね。淀みなくするするコメント出てきますね。
樋口:そうですね。そういうバンドさんを集めたし、「何となく集めました」って言う出演者は一つも無いですね。そういう人じゃないと。
●あと出展?があるんですね。
樋口:そう、『路地裏の僕たち』は、フジファブリックの志村正彦君の同級生で、彼らは展示になるんですけど、志村君にも当然、彼が生きていたら、今回のイベントの主旨だとか、お話させて貰ってた相手の一人ではあるので。彼がやってきた事をロフトの40周年で残しておきたいという思いが強くあったので、本人の稼動が無理でも彼の同郷の仲間達を呼びたかったんです。出演者と言うか、参加者ですね。
●意気込みとか、このイベントに込めた気持ちを教えてください。
樋口:本当に最初から最後まで見て貰えたら良いなって思います。無理のない範囲で。新たな出会いだったり、次に繋げて貰えたらこんなにブッキング冥利な事は無いなと思いますね。そういう日になるような一日を作れたら、というのが意気込みですね。
●3,4年前からふわっと聞いてた気がしますし。
樋口:そう、もっと前から言ってた気がする。フェスをやりたくてロフトに入ってるわけじゃないから、ただ長い事この仕事を続けていくうちに応援してるバンドさんが有名になったりして、沢山の人の前で演奏する機会が増えていったから、何かまとめて出来たら良いなっていう感覚でやっています。これを毎年のように継続してやっていく事を考えてなくて、節目毎に何か出来たら良いかなって。毎年フェスを企てている方もいるけど、それは私じゃないなと思います。毎年だとどうしても流行り物を追わなきゃならなくなるし、そういうのは気持ちが入らないし疲れちゃうと思って。自分には向いてないです!(笑)。
●はい。こうやって話を聞いてると樋口さんはちょっと特殊なブッカーさんだなと思います。音楽の仕事をブッキング以外に多様にしてらした経験もあるし、箱のブッカーさんてその箱に出演する機会が減ると「送り出した」モードにはいる感じが多いじゃないですか。でも樋口さんは絶えず応援し続けるし、だからこそ信頼関係が濃く続いている、そこが凄いなと思います。
樋口:あ、ありがとうございます。でも、最終的には「縁」なんだなと思いますね。なんか、バンドがそれなりに大きくなってから手を出すみたいなのは自分は興味が無くて、せっかく現場に居るんだからゼロを1にする作業を一緒にしたいっていう気持ちが強いんですよ。良いなと思ったバンドさんにはゼロからでも何かご縁があれば良いなと思っていますね。それが楽しいからこんなに長くこの仕事を続けていられるんだなと思います。
●そういう中で特に縁の深いバンドさんが今回呼ばれたという事ですね。
樋口:そうですね。自分の顔が見えるブッキングがしたいなと思って。ロフトにも複数のブッカーが居ますけど、私じゃない誰かを思い出させる日にはしたくなかったんです。「私が私が」じゃないですけど、覚悟と責任をもってやっているから、私のカラーが出る内容にしたいなとは凄く心がけていましたね。
●ではお客さんにメッセージを。
樋口:さっき、お客さんには最初から最後まで楽しんで貰えたら良いなって言ったんですけど。これをきっかけに良いなと思う出会いがあればCDに手を出して欲しいし、ライブハウスにも足を運んで欲しいし、これからの自分がやる企画にも期待していて欲しいし。これだけの事をやると「樋口さんやめちゃうのかな」って言われるんですけど(笑)、なんでそう思うんだろうって。そんなんじゃなくて、また始まるなっていう感じです。やりたい事は他にもまだまだあって。それって凄い幸せな事だなと思いますね。
●はい。ありがとうございました。
イベント当日はオープンからたくさんのお客さんが集まり、オープニングのカウントダウン映像では皆で5,4,3,2,1と掛け声をあげ、華々しいスタートでした。トップバッターの『藍坊主』からトリの『音速ライン』まで、全ての出演者が『ロフトの樋口さん』とのエピソードを語っていて、本当にしっかりとした信頼関係、今までに築いてきた歴史があるんだなと感じました。各ライブもそれぞれがカラーを持って、何に寄せるでもなく独自の世界を表現していて、素晴らしいパフォーマンスで魅せてくれました。こんなに幅広い音楽世界を「歌とメロディの良さ」をキーワードに一つのフェスとして見れるのはやはり特別なこと。出展の『路地裏の僕たち』ではフジファブリック志村正彦さんの貴重な写真の展示や富士吉田のおうどんの販売もあり、出演者のMCでも言われていた「異種格闘技戦」(笑)、正にバラエティに富んだフェスでした。詳しいライブの様子は公式ページで公開されますのでそちらをチェックしてくださいね。各出演者のインタビューも掲載されています。
これからの新宿ロフトも意欲的なライブが連日企画されています。どのイベントに樋口さんがかかわっているのか、想像するのも面白いかもしれません(笑)。新宿LOFT40周年おめでとうございます!

(文・写真:朝倉文江)

■イベント特設ページ
http://www.loft-prj.co.jp/LOFT/dm40th/