ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #2ゲスト:本秀康
SPECIAL[2014.05.24]
●本さんは音楽関係のお仕事ではメジャーからインディーまで幅広い方のジャケットなど手がけていますが、やはりその方の音楽も好きで引き受けている感じですか?
本:最初の頃は好きな音楽だけをやっていて、まぁそういうものしか仕事が来なくてラッキーだったんですけど、多少数を重ねていくうちに描いて欲しいって人が増えてきて、あんまり好きじゃない音楽をやっている人からの依頼もあったりはするんですけど、そういうのは断ろうと。
ネモト:へぇ、ちゃんと断るんだね。
本:他の仕事は自分のエゴでやらないんですけど、CDはね、僕の絵だとこういう音楽なんだろうなって思う人が多いらしいんですよ。
●なるほど。
本:だからジャケ買いして失敗したと思われたら、それが俺のせいだとしたら辛いじゃないですか。
ネモト:(笑)。ceroのジャケットはばっちりハマってたよね。
本:ceroくらいから僕の漫画を読んで育った子達が出てきたんですよ。メインソングライターの高城君が、ジャケットも僕の漫画でイメージを最初に持ってきてくれて。本当に僕の漫画の一コマをそのまま描いて欲しいみたいな発注だったんですよ。
でもそのまま描くとあまりにあれなんで、僕なりに変えましたけど。
あだち麗三郎さんもceroとかそういう繋がりですか?
本:あだち君はもっと前、前野健太君のバッグバンドにいた頃からの知り合いで。で、気がついたらceroの周辺にいたんですよ。あだち君の名前を聞くとミスプリントを思い出す…。(取材当日、雷音レコードからリリース予定だったあだちさんのレコード『Candy』のジャケットにミスプリントが発覚し、リリースが延期になるという事件が発生)
全員:(笑)
ネモト:うちも最近、JET SETと作った住所不定無職の7インチで同じようなことがあったからね。
本:ミスプリントの話しましょうよ(笑)。
ネモト:ジャケやり直しとか?
本:凄い悩んだんですよ。ジャケットの端っこに雷音レーベルのマークが入ってるんですけど、それが同じものが2個ダブって印刷されちゃったの。どうします?やっぱり直します?
ネモト:3Dの元みたいな感じ?
全員:(笑)
本:そうそう。だからごまかせるくらいの感じだったんだけど。
ネモト:でも雷音レコードは本やんのジャケットが重要なレーベルなんで。
本:そこなんですよ。僕はジャケットないくらいでもいいと思ってるの、実は。音楽が配信になってきちゃって、デジタルジャケットだとないようなもんじゃないですか。7インチなんてジャケットなくてもいいよね?
ネモト:あぁー。今はそういうのも主流になってるけど、でもやっぱり雷音レコードはジャケットはあって欲しいな。ファン的な目線で言うと。
本:それは超嬉しいけど。ジャケットも音楽と同じくらいの比重を置いて作ってますよって建前でやってるので。
ネモト:カンパニースリーブから何から凝りまくってるしね。なかなか出来ないことだと思うよ。
本:うーん、そうだね。やっぱりこだわってるので(笑)、回収したんですよね。
●そもそも本さんが雷音レコードを始めようと思ったのは何故だったんですか?
本:僕はジョージ・ハリスンが大好きで、彼が33歳とちょっとの時に、自分の年齢とレコードの回転数をかけて『33 1/3』というアルバムを出したんですよ。それで33歳の時にジョージ・ハリスンファンとしては、33歳にまつわる何かをしたいと思ったんですけど、33歳の自分に出来ることはなかったんですよ。それから年を重ね45歳になる前に、ラストチャンスだなと思って、45回転のものを何かを出来ないかと思ったんです。
ネモト:いい話だよねぇ。
本:それで45歳になる誕生日、3月3日に45回転レーベルを始めますということになりました。
●素敵ですね。
本:僕の周りには素晴らしい音楽をやる若者がいっぱいいて、彼らのアルバムのジャケットとか描きたいわけですよ。だけど「次のアルバム描かせてね」って言うとプレッシャーになるじゃないですか。
全員:(笑)
本:「本当は他の人にお願いしたいんだけど、本さんに言われちゃったから」みたいなことになると悪いので、言ったことないんですよ。でも自分のレーベルから出すんだったら、シングルだし、ちょっとお遊び的に出してもらえれば自分で描けるし。こちらから描きたいアーティストにフォーマットを作ったって感じですね。
●本さんが本当に出したいってものを出すって感じなんですね。
本:そうです。
ネモト:最初に大森(靖子)さん出して、あれはもう本当に完璧だったよね。
本:ありがとう。自分の漫画を褒められるより嬉しいよね。
●えぇ?(笑)
本:いや、照れがないからさ、そりゃそうでしょ。
ネモト:確かにレーベルで出してるもの褒められると凄い嬉しいけど、自分のバンドはちょっと照れがあるね。
本:ネモトさんとは実は音楽の趣味がばっちり合うわけじゃないけど、もっと深く話したいなと思っていたところで、僕が雷音レーベルを始めたので、レコードを作る話が出来るようになって。それでまた会うのが一層楽しくなった。
ネモト:DECKRECを始めた数年はアナログいっぱい出してたからね。LPも7インチも出したし、作らなかったのは10インチだけで。2000年頭くらいは作ってもちゃんと売れたしね。
本:レーベルを立ち上げるにあたって相談に乗ってもらったのは、ネモトさんと曽我部君と角張君。
ネモト:(笑)
本:あと、なりすレコードの平澤直孝さんには今でも毎日電話で相談に乗ってもらってる。
●凄いメンバーですね。
本:坂本慎太郎さんにも聞いたんだけど、この人のアドバイスを真に受けるとヤバいなと思って。坂本さんはレベルが違いすぎる。何出しても売れるからね。
ネモト:そこに入れてもらえるのは嬉しいな。雷音レコードはこのロゴ見た時に「あっ!」て思って、RHINO(ライノ)っていう再発レーベルには本当にお世話になったからね。
本:まぁ今でもお世話になってますけど。
ネモト:俺が10代後半とか20代の頃は昔の音源聞きたくても再発があんまりされてなくて、多分ライノくらいだった。60年代の音楽を再発で聞けたのって。
本:ライノとライコだね。あの雷音レコードのマークは可愛いけど、でも実は今まで俺がやってた中では異色で。実はお洒落にシフトしてるんですけどわかりますか?お洒落文化が苦手な俺が。
ネモト:それこそ渋谷系的な?
本:渋谷系から始まり全て。ちょっと泥臭くしたいんですよね。ネモトさんとか意外にお洒落じゃないですか。
ネモト:いや、そういうところの人から見たら凄い外れてるから。もの凄いコンプレックスあるし。
本:いやぁ俺から見たらお洒落なところにいる人なんですよ。そういうのを意固地にならずに、近づいてもいいんじゃないかなって。サブカルの中でもおどろおどろしいものとスタイリッシュなものとあると思うんだけど、スタイリッシュな方に無理矢理振ってはいるんです。だからデザインも岡田崇さんにお願いして。俺の周りのレコ好きデザイナーの中で一番お洒落な仕事をする人です。
ネモト:曽我部君のROSE RECORDSとかカクバリズムとかはお洒落?
本:もちろん。角張君は5年位仕事してて学んだ部分がある。
ネモト:ああいうお洒落からすると俺はずれてるじゃん。
本:まぁね。でも俺から見るとお洒落なんだよね。俺は敢えてお洒落から遠ざかっていたんだけど、角張君とかネモトさん見ていて、お洒落でもかっこいい、男気のあるお洒落っていうのがあるんだなと思ったの。
ネモト:でも俺は本やんの絵はお洒落だと思ってたんだけど。
本:でもライトかヘビーかって言ったらヘビーじゃないですか。マニアックさみたいのを入れ過ぎるとお洒落じゃなくなるんだけど、その方が見え方としてはかっこいいかなって思ってたんだよね。
ネモト:あぁ。多分昔のDECKRECはそういう意味では全然お洒落じゃなかった。マニアック過ぎて。
本:そうなんだ。
ネモト:今は住所とかうみのてとか出してるから、そう見えてるだけで。最初の10年位はコテコテの60年代とかの雰囲気のバンドばっかり出してたから。
本:ディスコグラフィーとか見てたら確かにそうだった。ネモトさんの方が先に気づいたのかもしれないね。そこに拘る必要がないっていう。
ネモト:雷音レコードの今後のリリース予定は?
本:今考えてるのは、あだち君の後にポニーのヒサミツ君を出して、その次2ヶ月連続で前野健太君ですね。ネモトさんって白レーベルのプロモ盤って出したことあります?
ネモト:うーん、サンプルは作ったことあるけど。
本:要はサンプルで付加価値のあるものを作りたくて。その盤でしか聞けない音源があるみたいな。でもそれってある程度利益のある人でしか作れないんで、前野君に2ヶ月連続で3枚作ってもらおうかなって。その3枚を買ってくれた人にはサンプル盤をお付けしますよっていうのをやろうとしていて。凄く大変だけど超楽しいっていう(笑)。雷音レーベルのが白黒になってて、PROMOTIONAL COPYって書いてあるやつで、A面とB面が同じ曲、みたいなのがやりたいんだよ。
全員:(笑)
ネモト:やりたい放題だなー(笑)。
本:本当にね(笑)。それで前野君の後に倉内(太)君も出したいと思っていて。
ネモト:それは完全に未発表音源も含まれる感じで。
本:倉内君は、初めて会った時は「音楽いいですね」「ありがとうございます」みたいなさらっとした感じだったんですけど、僕の漫画で『たのしい人生』っていうのがあって。
ネモト:倉内君のやってた前のバンドのアルバムが『たのしい人生』っていうんだよね。
本:それで倉内君が「CD差し上げます」って、そのCDをくれて。「俺の本から取ったのかな?でもこんなにあっさり言ってくるし、最初に言われたわけでもないから偶然なんだろうな」って思ってたら、中のブックレットに俺の絵をそのまま倉内君が真似して描いてあったんです。
全員:(笑)
●面白いですね。何で最初に言わなかったんでしょう(笑)。
ネモト:そういう奴なんだよ(笑)。
本:そうなんだ。俺に気を使って恥ずかしくて言えないとかかと思った。
ネモト:まぁ照れくさいのもあると思うけど、言うの忘れたとかかもしれない。
本:そっかぁ。倉内君、最高だよね。
●ネモトさんと本さんのお二人の出会いがあって、最終的に本さんの雷音レーベルからネモトさんのレーベル所属の倉内さんのレコードが出るって素敵な話ですね。
ネモト:うん、すごい嬉しい。
本:今日は深い話を出来る機会になって良かった。
●共通点も見つかりましたしね。
ネモト:っていうか今まで何の話してたんだろうね。
本:いや本当何の話もしてないですよ。
全員:(笑)

(文・小山裕美)
[PROFILE]
本秀康
1969年京都生まれ。イラストレーター/漫画家/雷音レコード・ディレクター。一見牧歌的な画風でありながら鋭い毒を持つストーリー/世界観によって、熱狂的なファンを獲得した。音楽への造詣が深く、音楽誌への寄稿、執筆も多い。テレビ番組、CM、雑誌広告、CDジャケットなどを手がける。主な著作/『たのしい人生』(青林工藝舎)、『レコスケくん』(ミュージックマガジン)、『ワイルドマウンテン』(小学館)、『MOTObook』(洋泉社)『まじかるきのこさん』(イースト・プレス)など多数。
http://www.recosuke.com/

[PROFILE]
ネモト・ド・ショボーレ
POLYSICS、SCOOBIE DO、KING BROTHERS、THE NEATBEATS、毛皮のマリーズ、黒猫チェルシー、住所不定無職、うみのてetcなどを輩出したロックンロール・レーベル「DECKREC」主催。ギタリスト として、チロリアンテープ・チャプター4、THE NERDS、The Mighty Mogulsなどのグループに参加。フリーの音楽プロデューサーとしても活動中。
https://twitter.com/DECKREC