■2014.10.12 塩屋・旧グッゲンハイム邸
Analogfish  "Town Meeting in the heim"
REPORT[2014.11.05]

佐々木健太郎が「アナログフィッシュの日」と呼んだ10月10日。ここ近年、彼らは毎年この日に少し特別な、趣向を凝らしたライブを企画している。2009年には新木場コーストで一時脱退していた斉藤州一郎の復活ライブを、2011年には日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブをおこなった。そして2012年からは、アコースティック形態でのライブをおこなっている。今年は10月10日に東京・IID世田谷ものづくり学校、10月12日にはそのシリーズとして塩屋・旧グッゲンハイム邸がその会場となった。どちらもライブハウスでないところだ。今年も特別な日になりそうである。

旧グッゲンハイム邸は神戸・塩屋駅から坂を少し上った丘にある、青と白の外装が眩しい洋館である。夕方6時、空が柔らかく暮れてきた頃、ライブがスタートした。ステージに向かって右から、下岡晃、佐々木、斉藤が横一列に並ぶ立ち位置で、下岡は主にエレキギター、佐々木はアコースティックギター、斉藤はタムとシンバルというシンプルな楽器構成。スタンドマイクではなく、それぞれがピンマイクを付けていた。建物1階の2つ続いた部屋がライブ会場になっていて、筆者は後方の部屋から観ていたのだが、一部残った仕切りの壁がまるで額縁みたいに見えて、3人が絵画の中にいるようだった。
佐々木がのびやかに、ギター1本で『SHOWがはじまるよ』を歌い出す。「僕らの住む町で素敵なショウが始まる」と高らかな開会宣言。満場の拍手と歓声で迎えられる。そこに下岡、斉藤のコーラスが乗り、華やかさが増す。10月8日に8枚目のフルアルバム『最近のぼくら』をリリースしたばかりの彼ら。新譜ではダンスミュージックの要素を取り入れるなど新たなアプローチを見せているが、アコースティックライブではこうやって彼らの魅力の一つである豊かなコーラスワークを堪能できる。佐々木が「旧グッゲンハイム邸は105年前に建てられたということで、その時間の流れを感じながら歌いたいと思います」と語ってから、『ハミングバード』。続いて、「久しぶりの曲をやります」と言って『ハッピーエンド』。どちらも佐々木の歌う大きなメロディが鮮やかで、サビで3声が重なるコーラスが爽快だ。
ここまで3曲続けて佐々木ボーカルだったが、ここから『NO WAY』、『GOLD RUSH』と下岡のターンへ。2人のボーカルを聴き比べて、面白い発見が2つあった。まず、旧グッゲンハイム邸の音の響きが独特なことだ。伸びやかな佐々木の声はより伸びやかに、シャープな下岡の声はよりシャープに聴こえる。つまり、各々の良さを活かすように響くのだ。そして、佐々木曲と下岡曲ではコーラスの乗せ方が随分違っていた。佐々木曲では3人が丁寧に声を重ね、下岡曲では3人が勇ましくやいやいと歌い合う。同じ「コーラス」という言葉だけでは表せられない大きな違いがあった。アコースティックのライブではこのような違いが際立って聴こえるから面白い。そして再び佐々木ボーカル曲へ。エレキギターとシンバルが揺らめくように鳴らされ、『僕ったら』のイントロが立ちのぼる。ひとつひとつの言葉を丁寧に置いていくように佐々木が歌い上げる。

下岡が、「京都の磔磔や甲府の桜座もそうだけど、ここはとても音が良いね。自然に聴こえる感じがする」とMC。「ここ何年か、10月10日はバンドでなくアコースティックのアプローチでやっていて、そういう形だとライブハウスではなくいろんな所でライブができるから、またやりたい」と語り、第1部最後の曲、『City of Symphony』へ。下岡がどんどん熱量を上げながらラップを叩きつけ、そこに佐々木が美しいメロディを伸びやかに重ね、斉藤がコーラスで全体を支える。3人がまったく違うパートを歌っているのに、いや、歌っているからこそ成立する曲だ。この曲をアコースティック形態で演奏するとは思っていなかったのだが、あまりにも完成度が高くて息をのんだ。圧巻だった。アナログフィッシュのアコースティック形態の完成形を見た瞬間だった。
少しの休憩の後、第2部が始まった。下岡がテンポを速めたり落としたりしながら、不穏なイントロをエレキギターで弾き始める。佐々木がアコギでベースラインを重ね、斉藤がタムをドコドコと勇ましく鳴らして始まったのは『Super Structure』。この曲をアコースティックアレンジでやるのは意外だった。サビでは3人のコーラスワークが映える。どんな曲でもコーラスを聴かせ所にする見せ方はさすがだ。続いて3人のアカペラコーラスから、『ガールフレンド』。一転して明るい空気になる。佐々木が歌うグッドメロディと3人のコーラスワーク。曲に合わせて客席から手拍子が起こり、さらに華やかさが増す。佐々木が曲中、「サンキュー神戸!」と叫び、歓声が上がる。次は『月の花』。佐々木のソロ弾き語りではよく演奏されている曲だが、その時よりもテンポをゆっくりにして丁寧に歌っていた。その丁寧さと大サビでの咆哮の瞬発力とが、見事な対比表現として完成していた。ソロの時はアウトロでギターを力いっぱい掻き鳴らすが、アコースティックではあくまでも優しく、コーラスの余韻を残して終わった。

続いて、新譜より『Nightfever』。下岡のラップが漂流しているかのように途切れず続き、サビに入ると佐々木の高音コーラスが優しく撫でるように重なる。「センターラインはどこにある?」という歌詞は、社会に向けたメッセージだととれるし、同時に哲学的な問いにも見える。様々に解釈が可能な奥行きと深さ。それらが下岡の歌詞を個性的で唯一無二なものとして光らせている。
終盤に向けて熱く強く、「Nightfever!」と繰り返し叫ぶ下岡。ステージを降り、ふらふらと客席になだれ込みながら叫ぶ。さらに、庭に直接続くドアを開け、外に向けて駆けていった! 意外な行動にどよめく客席。外から窓を覗き込み、そこから室内に向かって「Nightfever!」と叫ぶ。しばらく外で歌い続けていた下岡が帰還すると、拍手と歓声で迎える客席。会場はループするフレーズによって自家発電するように熱を帯び、曲が終わっても長く拍手が続いた。

その熱が残る場内を『Good bye Girlfriend』でチルアウト。ディレイ気味の下岡のコーラスがこの曲が持つ夜の雰囲気を増長させる。そのしっとりとした空気の中で、佐々木が語り出した。「『希望がない』と思っていた時に、友達が『希望はあるよ』と断言してくれたことがあって、それがとても嬉しかった。俺も強がりでもいいから、歌うときは『希望はある』と言おうと決めた」。そんな決意の歌、『希望』。佐々木のソロで聴いても感動的な曲だが、3人だとコーラス表現が多彩でさらに胸を打つ。歌詞の通り、風に向かって歩き出すような力強さを感じた。。
そして本編最後は『抱きしめて』。いつもよりかなりテンポを落とし、イントロから最後までひとつひとつ丁寧に歌いゆく。「危険があるから引っ越そう 事件が起きるから引っ越そう」といういつもの歌詞に続けて、独白のようにぽつりぽつりと「利権が絡むから引っ越そう 意見が割れるから引っ越そう 未練が残るから引っ越そう 保険が高いから引っ越そう」、そして最後に「あなたがいないから引っ越そう」と重ねていく。その上で、「ねぇ どこにあるの そんな場所が この世界に もうここでいいから 思いっきり抱きしめて」と愛を歌う。音の余白を単なる「音が鳴らされていない時間」ではなく、内なる心情の表現に変えていた。見事だった。

最後の2曲、『希望』と『抱きしめて』が放つメッセージ性と力強さ。それは薄っぺらいメッセージや物理的なパワーではなく、弱さや矛盾も包括した上で発せられるメッセージであり強さである。他のどこでもなく、今ここにある希望。それを真摯に見つめ、確信をもって表現する。特別なことを歌うのではなく、誰にでもわかりやすい言葉ですぐ手元にある日常を歌いながらも普遍を描く。表現しているものが日常から乖離していないからこそ、彼らは今、自らの立場を「社会派」と表現しているのだろう。

アンコールでは3人がステージ上にビールを持ち込み、乾杯をしてからスタート。和やかに始まった。1曲目は『UNKNOWN』。テンポを少し落としてゆったりと演奏されていて、この曲が持つ牧歌的な空気が強調されていた。とても心地よい。続いて佐々木が、「10/10の流れで関西に来れてよかったです。また会いましょう!最後は新曲で終わります」と言って、新譜に収録されている『Tonight』。グッドメロディと彼らしいフックが効いている、「健太郎節」のシティポップだ。彼の優しい歌声や3人の繊細なコーラスは爽やかな夜の風のようで、シンバルのトレモロは眼下に広がる町の明かりのようだった。今日みたいな特別な夜の終わりにぴったりだった。3人が退出しても拍手はしばらく鳴り止まず、佐々木がもう一度出てきて最後に改めて挨拶をし、再び大きな拍手で送られて終了した。

アコースティック形態でのコーラスワークはさすがアナログフィッシュと言うべきであるが、このライブの素晴らしさはそれだけではなかった。佐々木が今年2月にソロアルバムをリリースし、シンガーとして成長したこと。下岡の放つメッセージが力強さと鋭さを増したこと。これらの進化をそのまま詰め込んだ新譜を自信を持ってリリースしたこと。今日は、そのような彼らの充実ぶりをひしひしと感じたライブだった。そして、11月からはバンド形態でのワンマンツアーが始まる。
MCで下岡が、「今年はこれまでいくつかのライブでものすごく手応えを感じたんだけど、それを越えられるようにワンマンツアーに向けてかなり早くからリハーサルしている」と語っていた。今年はアナログフィッシュ結成15周年。しっかり地に足をつけながら、本質的なものを追い続け、表現してきた彼ら。次のワンマンツアーではどのような進化を見せてくれるのだろうか。楽しみでしかたがない。

(文/撮影:山岡圭)

OFFICAL HP
アナログフィッシュ http://analogfish.com/

Analogfish TOUR 「最近のぼくら」

2014/11/15(土) 仙台 PARK SQUARE
2014/11/20(木) 福岡 the Voodoo Lounge
2014/11/22(土) 大阪 Music Club JANUS
2014/11/23(日) 愛知 CLUB UPSET
2014/11/26(水) 渋谷 CLUB QUATTRO


SET LIST:
第1部
01. SHOWがはじまるよ
02. ハミングバード
03. ハッピーエンド
04. NO WAY
05. GOLD RUSH
06. 僕ったら
07. City of Symphony

第2部
08. Super Structure
09. ガールフレンド
10. 月の花
11. Nightfever
12. Good bye Girlfriend
13. 希望
14. 抱きしめて

Encore
01. UNKNOWN
02. Tonight