■2013.12.15 三重・四日市 カリー河
佐々木健太郎(アナログフィッシュ) 弾き語りソロライブ
REPORT[2014.01.14]
近鉄四日市駅からローカル線に乗って約10分、西日野という寂れた無人駅に着く。そこから徒歩数分の所にある小さなカレー屋「河」で、アナログフィッシュ・佐々木健太郎のソロライブがおこなわれた。佐々木がここでライブをするのは既に4回目で、いつもMCでは「ここ西日野は僕の故郷、長野県の飯田によく似ています」と話す。会場のキャパは30人、チケットはソールドアウトしていた。

厨房の奥から佐々木が登場し、ライブは初のソロシングル、『クリスマス・イヴ』からスタート。続いて2月5日発売のソロアルバム『佐々木健太郎』に収録される『Alternative Girlfriend』。2曲続けて冬を描く歌。この日の四日市はこの冬一番の冷え込みで、佐々木の包容力豊かな歌声で場内の空気がほっと温まる。「今まで“アナログフィッシュの佐々木健太郎”です、と自己紹介していたんですが、ソロデビューをしてこれからは、“佐々木健太郎”です、と言えます」とMC。この言葉から、ソロシンガーとしての自覚と自信が窺える。続いて『希望』。「希望」という歌詞を歌う度、音の余白を作り、徐々にテンポを落として歌っていく。そうすることで歌に繊細な感情が乗り、聴く者に伝わって胸を打つ。バンドの時とはまた違う、奥行きの深さや余白をつくる巧さが増していた。

「もし僕が歌を歌ってなくて、(カリー河のマスター)筑田和生さんがカレー屋をやってなくて、(地元四日市の三線奏者)山路トシフミさんがここを紹介してくれなかったら、今ここにいない。次はそんな歌です」と言って、『奇跡のような日』。奇跡はある日突然音を立ててやってくるのではなく、細々とした日々の営みが繋がって起こる。そんなことを思った瞬間だった。続いてサザンオールスターズのカバー『涙のキッス』。カバー曲を歌う時の、解釈力や消化力がまた更に一段と上がっている。第一部の最後は『いずる』。この日これまでに歌った曲からは全体的に優しい印象を受けたが、この曲ではギターのストロークがはっきり際立っていて、ひとつひとつの言葉を強く歌っていた。繊細さと力強さ。表現力の振り幅が一段と広がったように感じた。
休憩後の第二部はそれまでの重めの選曲から一転、『ガールフレンド』『ロックンロール』というアップテンポな曲でスタート。開放感に溢れ、朗々と伸びやかに歌う。ここで佐々木はビールをオーダー。「休憩のとき、カレーのいい匂いがしてました。でも僕はライブ中だから食べられない!」と言うと客席がさらに和んだ。続いては『ほら』。ギターの軽いカットが心地よい。「次の憂鬱までの執行猶予」という歌詞を歌うが、苛立ちや鬱屈を突き抜けた、力強い、前向きな曲に聴こえた。

「一昨日、GO FOR THE SUNというイベントを、フジファブリックとHINTOとで8年ぶりにやりました。楽しかったけど、志村くんがいたらもっと楽しかった。だから今日はフジの曲をやります」と言って、『茜色の夕日』。2009年に急逝したフジファブリック・志村正彦の歌を、言葉をしっかり掴み取るように丁寧に歌い込む。歌はこうやって彼を想う仲間によって継がれ、いつまでも鮮やかな色を放つ。そしてそれを聴ける幸せを噛み締めた。
ソロアルバムについては、「楽器を全部自分で演奏してレコーディングしました。一人だと休めなくて、腕がパンパンになった。大変だったけど、胸を張っていいものができたと言えます」と語り、場内から拍手。続いて、そのソロアルバムに入る『STAY GOLD』。年齢を重ね、大人になっていく足取りをストレートに表現している。若き衝動は消え、来た道を優しい目線で振り返るような曲だ。複雑なコードが織りなす豊かな世界と、サビへと向かうメロディの美しさが秀逸。まさに「健太郎節」と言うべき展開である。

次は『SHOWがはじまるよ』。これは、お笑いコンビ・オードリーの単独ライブ「まんざいたのしい」のテーマ曲として書き下ろされたものだ。オードリーの若林正恭がアナログフィッシュのファンという縁で、作曲を依頼されたとのこと。佐々木は「今まで下岡晃(アナログフィッシュVo.G)と膝を突き合わせて曲を作ったことがなかったので、今回はそれをやってみた。アナログフィッシュ15年の歴史の中で初めての曲です」とソングライティングの経緯を説明。その通り、新しいことが始まる期待感で胸が高まっていく、そんな曲だった。続いて『月の花』。抒情的な歌声とそれに沿うギターで優しく始まり、その後突如かき鳴らされる激しいギターと咆哮。そのダイナミクスに圧倒される。演奏後、客席から大きな拍手が起こるが、すぐ『Ready Steady Go』へ。マイクが要らないのでは?と思うくらい、伸びやかな歌声が店内に響き渡る。続いて大橋トリオのカバー『Happy Trail』。一転して軽快な曲。さらに「今日はずっしりと重い曲ばかりだったので明るい曲を」と言い、『Stubborn Kind of Fellow』。弾き語り定番の曲だ。自然と客席から手拍子が起こる中、笑顔でいきいきと歌う。続けて『アンセム』。手拍子もそのまま続き、多幸感と開放感が頂点に達した。
「今日は来てくれてありがとう。またここに帰ってきます」と挨拶。その言葉通り、2月23日(佐々木の誕生日!)、「真夜中の発明品TOUR」で再びカリー河に訪れることが既に決まっている。第二部の最後は『あいのうた』。大事なものをそっと手で包むように、優しく語りかけるように歌う。この曲は佐々木が弾き語りを始めた当初から歌われていて、筆者が初めて聴いたのは2007年だった。その頃、彼が書く歌詞は鬱屈した表現が多く、突然現れたストレートなラブソングである『あいのうた』を聴いてくすぐったく感じたのを覚えている。しかし今は、そんなラブソングさえ自然に聴こえるのだ。その間、歌唱力や表現力も増したが、歌自体も、彼自身も成長したのだろう。大人になったありのままの自分。これが、彼がソロシンガーとして表現したいことなのかもしれない。

鳴り止まない拍手に一度楽屋に帰った佐々木が戻ってきて、「第三部」と称されたアンコールが始まった。まず、『Goodbye Girlfriend』。音量をそっと落としてギターを弾き、艶やかな声で歌い上げた。続いてソロアルバムに入る『Sunflower』は、夏の情景が鮮やかに浮かぶ歌詞が素晴らしい。そしてSUPER BUTTER DOGのカバー『サヨナラCOLOR』は、シンプルなアレンジながら、
内省的な歌詞の曲が彼によく似合っていた。
最後は『僕ったら』。揺らめく美しいギターと、この瞬間を愛おしむように丁寧に歌われる言葉。
その丁寧さが何とも感動的だった。
満場の拍手の中、佐々木が去っていき、それと入れ替わりに場内BGMとして『クリスマス・イヴ』がフェードイン。マスターの心遣いだった。そして終演後、フロアに戻ってきた佐々木に、お客さんからソロデビューを祝ってケーキの差し入れがあった。ロウソクに火を点けて、佐々木が吹き消すと場内拍手。一段と温かい、素敵な夜になった。 (文/撮影:山岡圭)

ライブ情報などはこちら
http://analogfish.com/


SET LIST:
01. クリスマス・イヴ
02. Alternative Girlfriend
03. 希望
04. 奇跡のような日
05. 涙のキッス(サザンオールスターズ)
06. いずる

07. ガールフレンド
08. ロックンロール
09. ほら
10. 茜色の夕日(フジファブリック)
11. STAY GOLD
12. SHOWがはじまるよ
13. 月の花
14. Ready Steady Go
15. Happy Trail(大橋トリオ)
16. Stubborn Kind of Fellow (Marvin Gay)
17. アンセム
18. あいのうた

En:
01. Goodbye Girlfriend
02. Sunflower
03. サヨナラCOLOR(SUPER BUTTER DOG)
04. 僕ったら
『カリー河』 三重県四日市市西日野町5013-1 (近鉄八王子線 西日野駅から徒歩7分) tel:    059-322-2055 web site: http://currykawa2005.tumblr.com/ twitter:  @kawa2005