ウイイレヤクザ インタビュー
INTERVIEW[2019.11.19]
――『ビクトルおじさん』については、「ウイイレヤクザの新境地」っていうのとはちょっと違うんだけど、とにかくすごい良い曲だなと思ったんですよ。ウイイレくんとしては、手ごたえを感じて「シングルとして出したい」と思ったわけではない?

いや、ないっすね。何かポンと出たんで。なんだろな、あれはライブの当日に出来たんですけど。俺、当日に作った曲やること、けっこうあるんすよ。完全に夏休みの最後に宿題やるタイプなんで。「けっこうウケんな」と思いつつ、「ウケんな」方面にそのまま行くより感動系にした方がいいな、俺が目指すものに繋がるって。そん時は麹町のギャラリーでのライブだったんですけど、反応良くて、「これでいいんだ」って手応え感じて。

――今アルバムを制作中、っていう話を前から聞いてますけど、暖めておいてそこに収録するって選択肢もあったわけですよね。

円盤の田口(史人)さんが「シングルにしよう」って言ってくれたんで。

――8cmCDで出そうっていうのはどっちの発案?

田口さんですね。俺ほぼほぼなんにもしてない(笑)。2曲入りっていうのも8cmっていうのも、最初から言われてたかな。

――で、なぜ2曲目が『世界一のサッカー選手』なのかっていう(笑)。面白いけど、他にも歌ものらしい歌がある中で。

それも田口さんです(笑)。円盤でライブやった時にどっちの曲もやって、ライブの後に「あの2曲でシングル出そう」って言われた。俺も酔っ払ってたんで「あー! いいっすねー、出しましょー!」つって。

――ウイイレくんとしても「あの2曲でシングル、良いな」っていう気持ちはありますか?

あれ逆にアルバムでけっこう消化しきれない曲なんで……何か、けっこう良かったなって。アルバムが台無しになる(笑)。だからアルバムには入れないっす。
一応、「ビクトルおじさん」ってキャラにはモデルがいて。モデルっていうか、カポーティの『草の竪琴』っていう小説があるんですけど、準主人公みたいなドリーおばさんってキャラが出るんですよ。そのドリーと、クール判事っていうのが好きで。精神的に若干イカれてるみたいな、でもめちゃめちゃ純粋な人、子供の精神みたいな描かれ方してて。そういう感じすげーいいなと思って。モチーフっていうか、普通に好きなんで動かし甲斐があるなって。

――そういうキャラクターで、自分もストーリーテリングをしたいと。

そうそう。

――新譜の曲と同じ時期に聴いた記憶があるんだけど……「山ワニ」の歌があるじゃないですか。あれもギャグ要素があるんだけど、「伝説の山ワニに遭遇してしまった、でも生きて帰る」とか「ここで死ぬのか」とか、そういう生存への意識みたいなのが描写されてると感じました。

それは何か嬉しいっすね、そういう風に聴かれることは。大体、俺、軽んじられるんで(笑)。

――前からテーマを隠さないですよね。《郊外》の感覚とかについてもずっと言ってるでしょ。一時期、Twitter のアカウント、「ウイイレヤクザ」名義じゃなくて「郊外bot」だったし(笑)。浦和とかのエアポケットみたいな情景を写真に撮って上げる、たまにライブとかの告知をする謎のアカウント(※現在は削除済み)。それもずっと持っている興味なんでしょう?

それはずっとありますね。自分が生活してる環境からって、どんな生き物も逃れられないと思うんすけど。それをただ反映した、ってだけですね。

――ここら辺ってけっこう典型的な関東の郊外都市というか生活地帯ですよね。過疎があるわけじゃないし都心へのアクセスも関東じゃ良い方なんだけど、なおかつベッドタウンという。

何か、のほほんとしてますよね、埼玉は。横浜とか東京ってけっこうキレキレじゃないすか。文化が継承されてるな、みたいな。埼玉ってそういう継承まるでないんで。人柄っていうのかな……埼玉の感じみたいなのはありますよね。のほほんと、このままずっと続いてくんだろうな、みたいな。それがけっこう虎で表現したい感じかも。そういう感じって、地域によらずみんな持ってると思うんですよね。埼玉固有のノリっていうか、もっと広い、何か日本の土着的なダラダラっとした感じ。これをやったらすごい普遍的なんじゃないかなって。

――それこそ虎は、ルーツがこの辺ではないけどこの辺を生活の場に選んだ、って人たちもいるし。

そう。普段のこの……普通に飲んで会話する感じ? それをそのまま音楽に落とし込むってだけっすね。サウンドはそれで、価値観は俺とかイトシュンの今まで作ってきた感じ。ひたすら素直でいたいんすよね、バンドは。大体の表現って、帰結するところは一緒だと思うんですよ。アンパンマンみたいな。

――アンパンマン? ……アンパンマン(笑)?

愛と、勇気と、友情みたいな。その3つだけだと思うんすよね。表現の形が違うだけで、大体の表現はその3つなんじゃないかって思ってて。俺は正直もうそれしかやりたくないです。

――ちょっと揚げ足取りみたいだけど、友情は愛には含まないですか?

いやマジ、そこは難しいっすね、確かに。でも、含まれると思います。そうっすね、それだともう二択っすね。愛と勇気っすね(笑)。愛と勇気だけが友達だってことっすね。
……うん。それで!

――「それで」(笑)。この前何かで読んだんですけど、勇気って心理学的には存在しない、っていう説があって。

えー! 何それ。

――例えば「バンジージャンプできる」とか「注射を恐がらない」っていうのは、学習とか反復とかによる「こうしても大丈夫だ」「危険はない」っていう認識で成り立つんだっていう。味気ない話だけど、そういう認識の構築って確かにある。別の言い方をすると、そういう積み重ねによって、声の大きい人の声がどんどん大きくなっていくっていう図式もあると思う。浅薄なことも大声で、断定的に言えるようになっていく。ここまで大きい声で言っても誰にも怒られない、って積み重ねで。

それすげー面白いっすね。それはめちゃめちゃあるんじゃないですか? それでしかないような気もするし。初めっから勇気がある人はいないってことですね。そう考えると面白いっすね。

――でも、トライしたことないことにトライすることを表すのに、「勇気」って適した言葉じゃないかと思いますよね。そういうことしてる友達がいたら、お前には勇気がある、って言いたい。

励ます言葉でしかないかもしんないですよね、勇気って。それで全然いい。

――ウイイレくんのことは、勇気があるなしの話じゃなくて、「何でこんなことするんだろう」っていうので好きというか、観ていたいですね(笑)。

(笑)

――ウイイレくんって、人の目とか他人の評価とかって気にするんですか?

あのね、それ俺、ホントないっす。マジでない。ゼロ。最近ホント分かった。まあまあ、実生活ではありますけどね、さすがに。

――好きな子にかっこよく見られたいとか、いい仕事したら報いが欲しいとか?

そうそうそうそう。それはさすがにある。表現においては、ないっすね、マジで。だって俺が勝手にやってることだから。人の目どうこうじゃないわ、みたいな。それが商売だったらありますけど、趣味なんで。良く見られたいとか全くないかな。さっき言った、まっすぐやりたい、素直にやりたいっていう、それだけ。何か……サボテン育ててる感じっすね。ただ水やるだけ、たまに。それがどういう形になってもいいんすよ。それをただ見てるっていう。
自分が影響受けてきた人たち、それと同じレベルには行きたいな、っていうのはすげーありますね。それはちょっと次のアルバムでやりたいんですけど。むしろそれでしかないかな。自分が納得できればいいんですよね。俺はその域に達することが出来た、これで昔の自分を納得させられたかな、みたいな。

――そこで「武道館でやった」「どういう賛辞を贈られた」とかを目標にする人もいるけど、ウイイレくんは違うと。

全く違う。ゼロ! 俺、ワガママなんすよ、本当に。自分が納得出来れば、もうそれで終わり。自己完結野郎なんで。

――「出来た」っていう実感を、自分が持てれば。

そう。他人から「いやいや、達してない」って言われても、自分がその域に達したって思えれば。完全に基準が自分なんで。自分のことは本当にめちゃめちゃ信じてます。最近思ったんすけど、完全に親のおかげなんですよね。ものすごい親の愛情を受けて育ったと思うんで。そういうのがなかったらもっと、「世間よ、俺を見て」みたいな感じだったのかもしんないすけど。そういう意味では最近親に感謝してますね。他の表現者と俺の違いって、何かそこな気がするんですよね。俺と同じ方向の人もいるかもしんないけど。俺ね、コンプレックスないんす(笑)。「ない」は言い過ぎだけど、本当に素直に育ててもらったと思うんで。それが他の表現者と比べて強みだと思うんですよね。

――「この域に達したい」っていうのは、さっき挙がった豊田道倫・ストラグル・ D’Angelo になるんですか?

その3つだけっすね。ありえないっすけど、その人たちが中学とかで同じクラスだったら、俺は友達になる自信があります。結局そういうことだと思うんですよね。ノリが合うってだけです、マジで。表現ってそんなもんだと思うんですよ。通じ合う、ってだけ。
(文・写真:オオクマシュウ)

『ビクトルおじさん』

OZD-5001
1,000円(税別)
OZ disc
2019.08.21発売

■Soundcloud https://soundcloud.com/soya-oota
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