a flood of circle 『THE BLUE』佐々木亮介インタビュー
INTERVIEW[2016.03.28]
●はい。『プシケ』は皆嬉しいんじゃないかなと。
佐々木:どうなんですかね(笑)。その辺の反応がまだなんで。これはスタジオバージョンとして作ったんで、ライブとは違うし、だからDisc2を手に入れた人のお楽しみって事で。俺等もレコーディング凄く楽しくて、色んな考えたんですけど、最終的に「何故スタジオで録るんだ?」ってなった時に、スタジオで作れるものにこだわろうと思って。ライブで再現出来ない物が良かったんですよ。だからフィードバックノイズを凄いコントロールして、ノイズでハーモニーを作るって事をやってるんですけど。ちょっとマニアックな所を言えば(笑)。ノイズを沢山用意して、ダビングしてダビングして。分厚いハーモニーになってる。普通にギャーンってギターを弾くんじゃなくて、ハウらせた方が倍音が出て音の膨らみが良くなるんですよね。膨らみが大きくなってる音をいっぱい重ねてるから、音がブワ~って広がってスッとブレイクして戻るっていう。それはライブで出来ない事をって意識してやりましたね。
●ちなみに、「プシケ」には色んな解釈があるけど、どういう意味を使ってるのかなと。
佐々木:ああ、最初は、「プシケ」って精神世界っていう意味で使ってましたね。ジェフ・バックリーが何かのインタビューで「プシケ」って言葉を使ってて、それが印象的だったんですよね。あとサイケデリックのサイケ…プシケって英綴りで書くと「PSYCHE」でサイケなんですけど、でも「サイケ」って言葉をそのまま使うのがちょっと恥ずかしかったのもあったし。大学一年の時だったんで、あんまり、これはどういうメッセージで、とか用意して無かったけど、言葉として良いなって思ってた。あと、ほかであんまり「プシケ」って聞いた事無かったからタイトルとして良いなと思って。
●なるほど。「エロスとプシケ」とかもあるし、サイケもあるし、歌詞聴いてると天使系じゃないよな、と思いながらずっと聞きたかったんで(笑)。
佐々木:そう、だからそれだと思ってる人からよく「プシケ」に関する本とか絵本とか貰ったりします。これなんでしょ?って感じで。うん、抽象的な歌詞かも。Disc2は1曲目以降は全く違う曲になってるし、4曲目の『God Chinese Father』はオフィシャルの音源が存在しなくて。バンドを組んで初めてライブしてから一年後くらいにLoftの人と出会ってCDを作る話になるんですけど、それまで手売りのCDRしかなかったんですね。『ブラックバード』と『308』とこの『God Chinese Father』が入ってた。前2曲は無事に、最初のインディのCDに収録になったんですけど、コイツはクビになった曲で。だから元々のバージョンからだいぶ変わってます。リフとかメロディは残ってるけど、骨格が全然、もっとややこしかった。この5倍はややこしかったですね。で、これは面倒臭い、でもリフはカッコイイ、ってなってリフだけ抽出して(笑)。シンプルなアレンジで。この曲だけギター重ねて無いんですよ。ギター1本。他の曲はブースで独立して録ったのをミックスするっていう作り方をしましたけど、この曲はもっとガレージロック的な、一つの部屋に楽器全部入れて、マイクも入れて、せーので演って(笑)、はいOK!おしまい!って。
●おー。今回、ホントにいろんな事やってんですね。
佐々木:はい(笑)。だからこのDisc2は凄い面白かったです。録り方も結構チャレンジしたし。
●はい。そしてDisc3は佐々木亮介の弾き語り。結構な数入ってますね。
佐々木:そうすね。でも、あんまり、量のこだわりは無くて、アルバムから1曲ずつ抽出してこうってやったらこうなったってくらいの。インディのファースト、セカンド、アルバム、これも時系列になっているんですよ、完全に。
●アコースティックじゃなくて佐々木君の弾き語りっていうアイデアはどこから?
佐々木:うーん、いつも3人でもアコースティックVer.とかも演ってないし、あんまりイメージ沸かなかったんですよね。去年出した『ベストライド』で『Trash Blues』って曲を入れてるんですけど、それは俺の弾き語りとピアノだけで出来てる曲で、前までだったら、そういうアレンジで「フラッドの曲」として出すのはどうなんだろうって思ってたんですけど…「あえてドラムとベースが無いっていうのもフラッドとしてのアレンジなんじゃない?」って言ってくれて。成る程と。皆が共通してそういう気持ちがあれば、アレンジの幅も広がるなと思って、去年やってみたんで、ここで、オマケでDiscを入れるなら、弾き語りの方が面白いなって。何か、自分的にも弾き語りをずっと続けてきたのはフラッドの為ありきだなと思って。フラッドの曲も演るし。
●はい。Disc3良いですね、スッゴイ。
佐々木:あ、本当すか?
●ちゃんとフラッドで、歌声が凄く良い。今まで佐々木亮介が弾き語りを続けて来たのはこの為かもってくらい。沁みる。
佐々木:ああ(笑)かも知れないです。やっと作品として出せるくらいになった(笑)。自分の中でイメージと言うか参考にしたのがあって、ジョニー・キャッシュっていうシンガーソングライターが居て、リック・ルービン(音楽プロデューサー)って人とHIP POPとかブルースとか色々やってきた人なんですけど、ジョニー・キャッシュが亡くなる前にリリースしてた『アメリカンレコーディングス』っていう弾き語りの作品のシリーズがあるんですけど、それがめちゃくちゃ好きだったんですよね。その凄い良い所は…弾き語り作品って立派に録っちゃうと、ステージに居る所が想像出来る物が多いんですね。でもジョニー・キャッシュのやつは、凄く身近な感じがして、家に来て目の前で演ってくれてるみたいな感じの作品だったんですよ。このDisc1、Disc2が凄いぶっ飛ばしてる音でデカく聴いて欲しいアルバムだったんで、Disc3はせっかくだからそういう真逆の世界が良いなって。あと、セウ・ジョルジっていうブラジル人のミュージシャンが居て、その人はウェス・アンダーソンの『ライフ・アクアティック』っていう映画の中でポルトガル語でずっとデビットボウイをカバーし続けてる役なんですよ(笑)。
●(笑)。
佐々木:で、その弾き語りもジョニー・キャッシュみたいに凄く身近に感じられる、暖かい感じで。英語じゃなくてブラジル人だからポルトガル語で、それが面白くて。今はそれほどでも無いかも知れないけど、やっぱりロックってアメリカとイギリスの英語圏が中心になってやってきて、それを外国語で表現するのって結構カウンターパワーかなって。母国語で演る、意識してどの国にいってもこの言葉のほうが面白いリズムで歌えるかどうかっていう。俺は母国語だからたまたま日本語で演ってるんじゃなくて、カッコイイと思ってるから日本語で演ってるっていう所があるんで、英語よりね。その映画でポルトガル語で演ってるのが良いなと思ったのと、あと自分がロンドンに行く前のタイミングだったんで、自分が日本語でどうやって勝負しようって思った時に、そのセウ・ジョルジの「英語じゃない物で表現する面白さ」に気付かされて。それ意識して。あとリッキー・リー・ジョーンズっていう弾き語りアーティストに憧れがあった部分もあって、それはフラッドのいつものサウンドでは表現出来ない物だったんですよ。
●ああ、確かに。
佐々木:弾き語りを録る時はそういうのも意識して。だけど、それは基本的にa flood of circleが作って来た物の、身ぐるみ剥いだらこれが残ったっていう。全く別物にはなってないと思いますね。オサムさんとも、録る音こだわってよかったなって。
●音も結構色々遊んでる?
佐々木:そうですね。単純に楽器が違うのもあって、『The Cat Is Hard-Boiled』はバンジョー使ってたりとか。後は録り方、各曲どういう風にマイキングするかっていうのはこだわったんで。普通はギターとマイクを置いて、その音を卓(ミキサー)に送ってミックスするんだと思うんですけど、その場で歌ってる空気感をL‐Rでステレオでどう表現するかっていうのがテーマだったんで、スタジオのブースの中に、自分が歌ってる生音をモニターで出しちゃってるんですよ。だからちょっとライブに近い感じ。それがいかにもPA通したステージの音って感じじゃなくて、自分が弾いてる音と歌ってる歌とスピーカーから流れててる音の間にもマイクを置いて、空気感をどうキャッチするかっていうのに凄いこだわって。
●ああ、空間の音も一緒に入れたんだ。
佐々木:はい。アンビエント的な鳴りにも凄いこだわったんで。それは音で表現出来たと思います。身近な感じ、親密な感じっていうか。
●『月に吠える』のギターの音が凄くまろやかだけどこれは?
佐々木:ああ、下手なりにフィンガーピッキングめっちゃ頑張りましたよ(笑)。
●いやいや、凄く素敵です。カバーに中島みゆきさんの『ファイト』を選んだのは?
佐々木:『ファイト』は自分が好きだっていうのと、同時にハマッてるなって思ったんですよね。人の曲なんですけど。
●ハマッてる?
佐々木:『ファイト』って主人公が定かでないと言うか、Aメロがいっぱいあって、伴奏ごとに主人公が違うんですよ。逆に言うと本人である中島みゆきさんも登場しないっていうか。あの「ファイト」ってサビが来ると、全部の物に芯が通る、別々の主人公だった物が一つの芯が通る、魔法の歌だなと思って。詞の技術としても凄く優れていると思うし、主人公が居ない分、誰でも歌えると思った。その「誰でも」のニュアンスが、本当に「誰でも良い」んじゃなくて、主人公達の中に自分がぽんと居てもおかしくない。色んなこう、唇噛み締めてる系の人達が出てくるんですけど。
●うんうん。
佐々木:自分なりの唇噛み締めライフが此処まであったんで。それで歌えるなって思ったし、ただ好きな曲というよりはもうちょっと…内側に入れて歌えると思ったんですよ。去年弾き語りツアーを初めてワンマンで演ったんですけど、全会場で演って、歌ってても気持ちよかったんですよね。弾き語りの中に1曲はカバーを入れたいと思ってたし、しっくり来てる具合が強かったんです。強い曲だったし。
●年齢的にパターンは『ファイト』知らないですよね。
佐々木:ああ、CMに使われてましたよね。俺が知ったのは『大吟醸』っていうベスト盤でしたけど。
●おー、ちゃんと好きだったんだ。佐々木君の間口の広さ、面白いですね。
佐々木:ははは(笑)。自分の間口の広さが自分を解かりにくくしてるなって最近思いますけどね(笑)。何にでも首突っ込みたがるから(笑)。
●はい(笑)。ベストアルバム…にしても盛り沢山だね。デカ盛って言うかギガ盛(笑)。
佐々木:そうですね(笑)。だから初回盤のサンプル出来た時に「こんなに分厚いの?」ってビックリしました(笑)。
●あはは(笑)。これは絶対初回盤の方が買いですね。全アイテム持ってる猛者はどう違うかも聞き比べて突き詰めると面白いかも。
佐々木:ああ、そうすね。特にDisc1は全部リマスタリングしてるし。フラッドに興味がある人は初回盤買って欲しいですね。興味があるっていうか、既に知ってる人。で、まだわかんないけど、チャレンジしてみようかなって思ったら2千円出してくれれば17曲ズバッとベストがあるんで通常盤買ってくれればOKっていう。
●でもやっぱ初回盤ですよ。だってこれ今買わなかったらDisc2,Disc3は手に入らなくなっちゃうでしょ。
佐々木:そうですね。だから幻の盤になっちゃうかも。買っておいて欲しいですね。今回、これに関してはアナログも作って。これは流通しないで、ライブ会場と通販限定でしか買えないので。それのね、弾き語りの音もスッゴイ良いんで。アナログ持ってない人は是非チャレンジして欲しいですね。