ココロオークション『ヘッドフォンミュージック』インタビュー
INTERVIEW[2014.10.03]
●コピバンから始まって、オリジナルをやり出して、音楽を楽しくて遊びでやってたところから、本気になる瞬間ってあると思うんですが、それはありました?
粟子:…うーん、でも、遊びつつも結構本気だったんですよね、最初から。未だに最初に作った曲を演ってるっていうのも、本気やったから。意気込み的には変わってないんですけど、演奏的に変わったのは、やっぱり「eo Music Try」っていうのが凄く大きくて。お客さんから投票貰ったり、色々せなあかんのですよ。お客さんとか票集めたりやっていく中で、バンドって僕らだけのモンじゃないんやなって、思ったときがあって。皆の物じゃないけど、凄い支えられてるんだなってほんまに、どこかで思ってはいたけど実感したと言うか。結構それ以降のライブは変わったかも知れないですね。その前に「見放題」もあって、僕、初めて出た大きいフェスと言うか、初めて満員のお客さんの前で演らせてもらったんです。その時に、この景色、絶対もう一回見てやる!って思って。徐々にですけど、瞬間瞬間でスイッチ入っていったって言うか、だんだんとギアの回転数上げていったっていう感じですかね。
●徐々に。初めにどんなバンドにしようっていうのは無かったって言ってたんですけど、じゃあバンドのアイデンティティは活動していく中で固まっていった?
粟子:そうですね。チキンジョージの教えじゃないですけど、あんまり人の話聞くなって、自分達の好きなことやっていっぱいライブして、そん中で見つけたらええねんって、一番最初に教わってたんで。いっぱい試してからやろうかなって。僕だけかも知れないですけど(笑)。そう思いながら活動してましたね。で、2011年の「eo」で優勝した時に、多分、求められてるもんとか、やるべき事はそうなんやろうなってのは薄々感じて。それは曲を生かす演奏だったり、声を大事にするとかメロディが武器なんだっていうのは、その辺で僕は自覚しました。
●はい。その後もバンド内での話し合いも無く?
大野:そういうこと全然してないです、ほんまに。方向性的な話とかは全くしないです。多分最初っからそうだったんやと思います。嫌だったら嫌って言うし、やる前から。普通そうじゃないんですか?方向性とか決めるもんなんですか?
●決めるバンドもいますね。だからココロオークションは仲良い友達から始まってるのが大きいんだと思います。
井川:ああ、言わんでも良いみたいなとこはあるよな。
大野:だから粟子さんが作った曲だったら何でも良いよってあるんだと思います。初っ端からそうやったんで。うん。
●今年の4月には『七色のダイス』をリリースされてましたね。どんなアルバムを作ったか教えて下さい。
粟子:やっぱり、初めての全国流通盤なので、初めて聴く人のことを意識しましたね。今までライブで演っていた既存曲とかがあって、過去に会場限定盤を三枚出してるんですけど、そん中から何曲か集めて自己紹介的な、インディーズベスト的な物になるようなCDで。僕らの曲は、自分ではあまり意識して無かったんですけど、聴いてくれる人の背中を押すとか、元気付けてくれるって言われるので、これ聴いて元気出してくれたら嬉しいなって。前に進むきっかけになってくれたら良いなと思ってます。
●今だから言える、こう聴いたらさらに楽しめるっていうポイントを教えてください。
粟子:『七色のダイス』っていう名前自体、コンセプト的に、それぞれ曲に色があって、それをいろんな角度から見て楽しんで欲しいって思ってるんで、例えば曲順を変えて聴いてみると感じ方が変わると思うんで、それやってみて欲しいですね。
井川:なんやろ、ドラムで言えば『ワールド』は聞いて欲しいですね。今までにない、自分に無かった物を出そうと思ってやったんで。壮大な、特に最後のたたみ掛けるところは必聴です。感情の赴くままに叩きました。
大野:ベースでは無いですけど、あのアルバムは昔からやってる曲も入ってて、ミックスも変えたりしてるんで、前のCDを持ってる人は、例えば『ナゾノクサ』とかはリミックスになってるんです。YouTubeとかに上がってるのとは違うんで、気になったら通販もやってますし、会場限定盤もあるんで、聴き比べとか面白いと思います。
●今までの活動で強く印象に残ってる事を教えてください。
井川:僕はこの、リリース直前のツアーが印象的でしたね。『七色のダイス』は初めて全国で発売されて、何かね、頑張ってきたのが形になったのかなって。まだ達成されては無いと思うんですけど。それで周ったツアーは全部楽しかったなって思ってますね。
大野:いっぱいありすぎて(笑)。どれもね、凄く嬉しいんですよ。どれも思い出深いんですよね、結局のところ。強いて言うなら、この間のワンマン(7/20)は、ゲストギタリストも入れて演ったので、それは今までの中ではなかった経験だったので、楽しかったです。リハも皆さん一発あわせたらほぼ良いです、って感じだったので。後は偉そうな話、良さが出るようにちょっとアレンジ変えてみたり、良さが出過ぎてる処は引っ込んでもらったりとか、そういう作業が楽しくて。尊敬してるギターの人に参加してもらえたので、音楽的に充実した…リハーサルとライブはそうでしたね。凄く大変でしたけど、やっぱり。
粟子:そうですね、いっぱいあるんですけど、初めてのPV撮影とか、こんな風に撮るんや、レコーディングとかもこんな風にやってるんやって、いっぱいあって。あと宇宙フェスとか、同世代の関西の仲間と手作りで野外フェスやるっていうので凄い充実感ありましたし、若草山Music Fes、野外の大規模なフェスは初めてだったんで、超気持ちよくて。山に向かって演奏して、山からその大きい音が反響で帰ってくる。hoshiotoっていう岡山のフェスもそうだったんですけど、ロケーションが良い所で演奏するのは凄い気持ちよかったですね。後はやっぱり、ギターの冨山が抜けた時のライブのお客さんの顔とか…その時のライブって凄い色んな事を考えながら演ってて。こいつと演るの最後なんだな、とか、そういうの普段あんまり考えないし、何か考えてる時は良くないライブだったりするんですけど、その日は何かこう…冷静で居れたというか。演奏してる自分を後ろから見ている感じ。すごく面白かったですね、その時の感覚は。あれ?今俺めっちゃ考えながら演ってるわ、って。スローモーションで見てる感覚。そのライブは凄い印象に残ってますね。

●ではバンドの核の部分、ココロオークションの曲の出来方を教えてください。
粟子:最初は…基本メロディから曲作ってて、詞が後なんですけど。最初の頃は変わってて、メンバーにスタジオに弾き語りでもって行くんですよ。そしたらドラムの彼がタイトルをつけるんです。
井川:最初はね。今はやってないよ(笑)。
粟子:「ナゾノクサっぽいな」、「じゃそれで歌詞書いてくるわ」って最初やってて(笑)。色々有りますね、ほんまに。でも基本メロディとリズムから作るんです。
●メロディを作る時は?色んなパターンがあると思うんですけど。
粟子:降りて来る系ですかね。ギターで作るときもあるんですけど、結局採用されるのは、道歩いてる時に浮かんだメロディやったり、シャワー浴びてる時に歌ってた鼻歌だったり。今人気がある曲とか良いなって言ってもらえる曲はそういうのが多いんで。直感を大事にしつつ、基となるメロディから段々広げていくっていう感じです。
●メロディが閃く時のパターンはほかにもあったりします?
粟子:うーん…浮かぶ時って、何かに感動した後に、…ちょっと日が経って、それを忘れて「無」になった瞬間に多分そのカケラじゃないですけど、それが降りて来て、空っぽの自分に…ああ上手く言えへんな。…何も考えてない時です!浮かぶのは!
●諦めた(笑)。何か心が動いた時に、忘れられなかったカケラが降りてきて曲を書かせる?
粟子:あー、そうですかね。全部忘れたと思ったけど、残ってた物がメロディになったりするんかなって自分では思ってます。
●その、感動の元っていうのは? 本だったり映画だったり、色々あると思うんですが。
粟子:あー、僕の場合は音楽ですね。ライブだったり、色々なんですけど、メロディであったり歌詞であったり…新しい音楽に出会った次の日とか、めっちゃ浮かびます。
●はい、曲の元が出来て、その後は?どれぐらい形になってからメンバーとあわせるのか。
粟子:まちまちですね。メロディ、ほんまにワンフレーズをジャムってやるときもあれば…あ、でも基本はワンコーラス決めてそこから広げて行くのが多いですね。
●その時はまだ歌詞は無い状態で?
粟子:歌詞は無いです。でも、こう嵌めたい、みたいなのは頭の中にあって、それに合う様なリズムパターンを、ほんまにベーシックですけど、こんな感じでこんなノリでやって欲しいって伝えて。
大野:うん。
井川:そうですね、彼が120%ええモンって言うか、良いなって思う物が出せるように努力はしてるんですけど。
粟子:弾き語りの時点でギターのリズムがあるんで、それを2人に再現してもらうっていう感じです。歌詞をつけるのは基本、全部出来てからです。アレンジとか、構成を決めてから、歌詞を書いて、またそっから変わります。
●歌詞を書く段階では曲のイメージが全部出来上がってる?
粟子:そうですね。曲のイメージがあって、それに歌詞を書いて、そしたらまた変わるんですよやっぱり。だから歌詞を書いたイメージに合うように曲をまた整える。
●歌詞の書き方ですが、曲のテーマから言葉を持ってくる?それとも言いたい事があって、それを組み立てていくとか、どういう流れですか。
粟子:…うーん、僕…は、あんま頭では意識して無いんですけど、何も考えずに曲を何回も聴いて、ループして、言葉を書いていくんですよ。フレーズフレーズで、単語を。曲から思いつく単語を書いていって、それを並べ替えて、これは残そう、とか。ここはバチっと決まったから残そうっていうフレーズがいくつか出てきて、それにあわせてストーリーを作っていくんです。無意識の自分、を、呼び出すっていう感じです。で、これがカチって嵌まるっていう事は、多分心の中でこういう言いたいと思ってて、こういう気持ちなんやな、今はって。じゃあそんな感じで歌詞書いてみようかなって。
●じゃあ意識的に無意識から想いを呼び出すみたいな。
粟子:曲にもよるんですけど、今回の最後の『夏の幻』とかは、せつないって言うか、別れの曲っていうか、そういうのを書いてみよう」って書いた曲ですけど、基本は無意識に浮かんだ言葉を呼び出して、メロディと歌詞がバチっと合う瞬間を探して、それを軸に組み立てていくっていう感じです。
●歌詞でのこだわりと言うか、気をつけていることがあれば教えてください。
粟子:こわだりね、こだわりっていう意味では、あんまりこう、ストーリーを一つに絞りたくなくて、聴いてくれるお客さんがそれぞれで、妄想じゃないですけど、色んな意味にも取れる事を心がけてますね。ちょっと恥ずかしいんですよね、僕が、気持ちを言うのが。…あと、捻くれた部分があって、歌詞に二面性を持たせて、多分お客さんはこういう風に聴いてくれるけど、俺は全くそういうつもりで歌ってへんけどな!全然違う意味だけどな!って(笑)。そういう感じで気持ち良いとか(笑)。
●悪い顔だ(笑)。そういうのあるんですね(笑)。じゃあ歌詞を裏読みしたら違う視点もあると。
粟子:あるかも知れないです。でも、基本は僕の手を離れた時点で、皆のモノなんで。色んな風にとってもらえたら嬉しいし、それが一番なんで。曲も喜んでくれると思うし。自分を出さないで、曲が主役だから。
●言葉の元は何処から出てきてると思いますか?沢山本を読んでるとか、印象に残った言葉を書きとめてるとか。
粟子:うーん、分からないです。本もあんまり読まないし、映画も観ないんで…だから音楽かも知れないですね、もしかしたら。音楽いっぱい聴くんで。歌詞から歌詞集めてるのかなぁ。自分では分からないです。
●じゃあ、粟子さんのインプットは90%くらいが音楽?
粟子:最近じゃあそれだと狭くなるなと(笑)思って、本とか映画も観だしてるんですけど、そうですね…そうか。思い返してみると、小さい時「詩」とか好きだったんですよ。谷川俊太郎とか詩集が好きでめっちゃ読んでたんで。もしかしたらその辺とかもあるのかも知れないです。
●小さい時に谷川さんて結構渋いですね(笑)。
粟子:そうなんですよ(笑)深いって言うか、そういう言葉が好きで。あとひらがな好きなんですよ。漢字で書いたら意味が一個にしぼられるんで。て言うてもそんなに歌詞ひらがなで書いてないですけど(笑)。

●では10月リリースの『ヘッドフォンミュージック』について。2枚目の全国流通盤ですね。どんな物を作ろうと考えてましたか?
粟子:それもあんまり考えてませんでしたね。前の作品より刺さると言うか、もうちょっと言葉を鋭くしようと。今まではどんな意味にも取れる言葉を使って、ふわっと、気持ちよかったらええやん、って感じで考えてたんですけど、もうちょっとこう、分かりやすく歩み寄ってみようかなってところとか。音に関して言うと音数減らしてもちょっとソリッドにして、一人一人の存在感を上げようかなって処ですね。そこはちょっと、前からは変えようと思って意識はしました。
●盤を作るときもメンバー間であんまり話はしない?
粟子:しなかったですね。でも一枚通して世界観は壊さんようにはしようって話はしてたよな、最初。
大野:あー、した、ような。
粟子:でも結局そうはならんかったよな。
大野:なってると思うけどな。
粟子:なってるか。今回に関して言えば、『ヘッドフォントリガー』は『ツタロックdig』っていうコンピにも収録されていて、録るのが先だったんですけど、あとの4曲は・・『ハルカ』はリアレンジし直したんで、短時間で4曲ガーッと仕上げたんですよ。ほんまに。「今」っていう純度は凄い高いと思います。だから世界観とかは統一されてるのかなって思いますね。
●じゃあ「今」を詰めた感じ?
粟子:そうですね、毎回、盤を作るときに「こういうのにしよう」とかじゃなくて、今ある曲を最善の状態で聴いて欲しいっていうのの繰り返しですかね。メロディも結局、他にも何個も候補があるんですけど、今僕が歌いたいメロディはこれかな、って選んで作ったのがこの5曲なんで。
●『ヘッドフォンミュージック』というアルバムタイトルについて教えてください。
粟子:これは1曲目の『ヘッドフォントリガー』がリード曲と言うか、結構気に入ってて、名前も。最初『ヘッドフォントリガーe.p』のつもりだったんですけど5曲入りのミニアルバムになって、タイトル要るな、どうしよう?って思って、その時思い浮かんだのが『ヘッドフォンミュージック』なんです。こう、ヘッドフォン…スピーカーでも良いんですけど、ヘッドフォンの向こう側、何越しに聴いても心まで伝えてやるぜ、って。ちょっと皮肉も込めて言ってるんですよね。
●皮肉?
粟子:「ヘッドフォンミュージック」って言ったら凄くポータブルな、軽い音楽なのかなって思われるかも知れないけど、そうじゃなくて、色んな媒体、どんな媒体を通してでも、それを突き抜けて心に刺しに行く、届けに行く、そういう意味を込めて『ヘッドフォンミュージック』ってしました。