COLUMN[2015.08.18]
Bad Kitty Nap
Vol.5 2015/8/17
第六章

猫の名前はジュジュにした。

元ローリンズストーンズのギタリスト、ブライアンジョーンズのジャジュカと迷ったけど、
当時好んでよく聞いていた元ガンズアンドローゼズのギタリスト、
イジーストラドリンの新バンド ジュジュハウンズから取ってジュジュ。

ジャ とか ジュ とかそういのがよかったようだ。
ちょっと呼びづらいけど、なかなかかわいい名前じゃないか。

さっそく「おーい ジュジュ?」と 呼んでみた。もちろん猫が答えることはない。


次はごはんのことだ。

当時のぼくは一人暮らしも、バイトも始めて間もない
超のつく貧乏学生で、
マクドナルド裏口には冷めたハンバーガーとフライドポテトが捨ててある
という噂話を聞いて深夜に行ってみたり、公園に落ちているチョコレートやスナック菓子を平気で食べたりもした。


そんな訳だから当然猫の餌を買うような余裕などあるわけもなく、 それに、たとえ買ったとしても自分が食べてしまうかもしれない。ゴミを拾いにいくよりはましだ。 だから猫なんて飼っていけるのかなという心配は当然あった。 (結局のところ、ジュジュに猫の餌というものを買うことはその後一度たりともなかった。) アパートには大家さんがよく掃除などで顔を出しに来ていたので なにかの拍子に猫を飼っていることがばれてしまうのでは?というのも心配のひとつであったので、 ぼくが学校やバイトに行く時は家からジュジュを出しておくことにした。 つまり放し飼いだ。
さっちんから預けられて、すぐに外に飛び出しても帰ってきたジュジュだ 放し飼いにしても大丈夫だろう。 結果はうまくいった。 ジュジュはぼくと一緒にアパートを出るとどこかへ遊びに行き、 ぼくが帰ってきて玄関前でキーホルダーをカチャカチャと鳴らすと 草むらをかき分け駈けよって来た。
心配していたごはんは、どこかよそでもらってくるらしく、食べ物を欲しがる事はなかった。 時々パンをあげたりする程度。 それから、トイレ。 部屋の中には猫トイレの用意がなかった。 というのも放し飼いなのでトイレはどこかでしてくるのだ。 家のなかでしたくなると窓際に行って鳴くので開けてやると ぴゃー っとどこかへ行って済ませるとまた戻ってくる。
はっきり言って面倒などまるでみなかった。 みた記憶がない。 一度ソファにおしっこをしたジュジュをすごく強く怒った事があった 家にトイレを置かない自分の責任はまるで考えず。 それでもぼくが帰宅すると駈けてきて、夜になると一緒の布団に潜り込んでくる。 かわいくて仕方ない。 ずいぶんむちゃくちゃでいい加減で責任感のかけらも無い 完全自由気ままな猫との日々。
そんな暮らしが2ヶ月を過ぎたある日、母親がぼくのアパートを訪ねてやってきた。 あまりのグダグダ生活を見かねた母は帰りがけに「この猫がかわいそうだから」と 突然ジュジュを実家に連れて帰ってしまった。 母も同じく猫など飼ったことはないはずだが、余程あわれに見えたのか・・ 今思えば、一人っ子のぼくが実家を出て寂しいという思いも少なからずあったのかもしれない。 ぼくのほうもジュジュにはそのほうがいいだろうと思えたので 特に引き止める事もなくジュジュを預けることにした。 連れ帰る前に 「この猫、名前はなんていうの?」というので 「ジュジュだ」と答えると 母は「ふうーん」と言ってジュジュを抱いて車に乗せアパートを後にした。 ジュジュが行ってしまってもアパートからいなくなったという寂しさはまるでなかった。 猫を飼うにはまだまだぼくはガキだったのだ。
しばらくの後、久しぶりにジュジュに会いに実家に帰ると ごはんもちゃんとあって、トイレもある普通の暮らしにジュジュは満足して、かわいらしく元気に過ごしているようだった。 しかしひとつだけ変わってしまった事があった。 「ひでたかがロックをやっているから猫のなまえはロックにしたわよ ねえロックちゃん」と母は言う。 「あらら そうですか・・」 けどまあ、ジュジュよりロックのほうが呼びやすいか、それに同じロックンロールである。 こうしてさっちんのネコはジュジュからロックちゃんとなり、やっと安住の地を見つけることができた。よかったねロックちゃん。 その後、少ししてぼくのバイト先「ハウス」がつぶれた。 社員がおらず、バイトだけに任せきりで経営はめちゃくちゃだったのだ。 ぼくは次の新しいバイト先であるニンジンでバーテンダーのバイトを始めた。 バイトばかりして朝までロックンロールを聞いたりギターを弾いたりするような毎日を過ごし 次第にロックちゃんの事を思い出すこともなくなっていった。 もちろんさっちんからの連絡もない。   そんな風に時が流れ ぼくが19才を過ぎた夏、東京は猛暑に襲われた。 1年ぶりに実家に帰ると両親は出かけていたが、ロックちゃんは昔のようにひょこひょこと迎えに出てきてくれた。 すっかり実家の猫となっていて、半年に一度帰ればいいような ぼくの存在をまだ覚えてくれているらしい。 いい猫だ 「ロックちゃんただいま げんきだった?」 文と絵 おおくぼcatひでたか
おわりっぽいですが、話はもう少し。 次回につづきます ~お知らせ~ 今月はタバコジュースイベントがあります。 第二夜となる今回のゲストは臼井ミトン君です。  高い音楽性で先日のフジロックにも出演、楽しい夜となりそうです。 ぜひぜひ!詳細はバンドのホームページをご覧ください。 tobaccojuice企画 ツーマンライブイベント「二つの三日月」 東京吉祥寺スターパインズカフェにて隔月開催中 第二夜 8/22(土)ゲスト:臼井ミトン  http://www.tobaccojuice.info/
おおくぼひでたか
東京都在住 74年生まれ AB型
ぬいぐるみ作者、tobaccojuiceのギタリスト
古着や帆布、フェルトを主に使ったカラフルなどうぶつぬいぐるみを制作。
ワークショップを各地で多数開催し新宿伊勢丹、銀座三越など大手百貨店での販売も好評を得る。
著作
『どうぶつぬいぐるみ
~ちょっと不思議なかわいい世界~』文化出版局
ネコを溺愛し、手作りフードで飼育中、ときに悩む。

・http://monacos.info/

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