COLUMN[2014.08.28]
パッションがそんなに持続するわけないだろ
Vol.5 『2014年6月定期報告』
結構ハードだった気がします、6月。また、大事なライブばっかりなんですよ。観てるだけなのに、頭破裂しそうになります。そんなこんなで一か月以上も更新が遅れてしまいました。

「予定調和と職人芸」
絶対に良いとわかってるものに対しての、「だからこそ観にいきたい」「観にいかなくてもいいかな」どっちに転ぶか、その境目はなんだろう、というのは常に考えたいことのひとつ。
何が起こるかわからない、そのスリリングさ、その場限りの瞬発力起爆力、それに対する驚き。対して、確かな演奏などでもたらされる、期待したものをこえて広がる感動。過程、工程を見せること(スリリングさ)と、結果、成果を見せること(確かさ)の割合というかバランスというか。どちらを求めるのか?

例えば。ラーメン屋がスタンダードなラーメンを作り続け、それを高めていくこと、みたいな例え話。どんなラーメンが出てくるのは最初からわかってるわけです。でも通ってしまう。料理と音楽と求めるものの違いはあると思うけど。あと、スタンダードなラーメンも、その日のコンディション(店側、自分、両方)によって感じ方は違うし。店によっては限定メニューあったりして、それも目当てで行ってしまったり(話ちょっとそれた)。

でも、予定調和ってそんな悪いもんでもないんじゃないかなと。言葉のイメージがネガティブになってしまっているだけで。そればっかりだと唾棄すべきものに成り下がるけれど、やっぱりバランスというか。
私は欲張りだから、予想もつかないものに驚きたいし、同時に、これこれ、これだよ!ってものにニヤリともしたい。期待にこたえて想像をこえて価値観を破壊して再構築してほしい。そういうものを追っかけていきたい。

これ相当欲張りですよね。でも、期待してしまうんですよ。

※6/1分は5月の報告に含めています。

2014年6月 11回 6/ 3(火)ホライズン山下宅配便NRQ吉祥寺バウスシアター 吉祥寺バウスシアター閉館にともなうイベント「LAST BAUS/LAST LIVE」三日目。開場時には二組がバウスの屋根の上で演奏する一幕もあり。ホライズン山下宅配便は過去二度上演されている「少年の堕落」というライブと映像で構成される演目。監督黒岡と撮影編集VJ担当代田のタッグで全編に映像がつけられている。バンドの演奏は鬼気迫る以外の何物でもなく、黒岡にも何かが降りてきているようだった。何より、第一音第一声から、映像と四人の佇まいが美しく鮮烈だった。古い曲たちは今のホライズンによってさらに破壊力を増していた。第二部ではメンバー出演による小映画「ザ デッド」が上映され、さらに第三部では新しい曲たちが演奏された。まるでワンマンを観終わったかのような飽和感とボディブロー。 NRQ、スクリーンには中尾が昔8mmフィルムで撮影した車窓風景が延々と続く。曲間で駅で止まったり、曲が始まると走り出したり、場面が変わったりしていたが、全く操作しておらず、偶然だったとのこと。この日は中尾のソロがNRQでは過去に観ないほどさく裂しており、身動きがとれなかった。次作へ向けてのモードで、この日初演の新曲もあり、とにもかくにも新譜、新譜を早く!と鼻息が荒くなった。(新譜に入る予定の曲たちはこちらから試聴できる。) バンドの組み合わせ、ライブと映像、映画館での演奏、と良い要素しかないライブだったが、両者ともその期待をはるかに上回っていて、今思い出しても胃のあたりがおかしくなる素晴らしさだった。(この日についての黒岡のブログはこちら。) 6/ 4(水)ceroVIDEOTAPEMUSIC吉祥寺バウスシアター 「LAST BAUS/LAST LIVE」四日目はcero × VIDEOTAPEMUSIC という超強力タッグ。映画館のスクリーンでみるVTMの映像はいつにも増して素晴らしい。冒頭はメンバー出演の映画館劇場マナーCMパロディ、それぞれの活動を映画予告風にした映像とサービス満点。そしてライブは対バンではなく、一つのアクトとしての演奏。両者の曲を織り交ぜてのセットで、もちろん全編VTMによる映像付だ。ライブ全体の進行も彼が流れを作っていて、バンマスというかコンダクター的。いつにもましてテンションも高い。VTM、ceroとも新曲がキーになっていて、リリースへ期待が高まる。音も上物の分離がはっきりとしていて、快適かつアレンジの素晴らしさを際立たせていたのでは、と思う。爆音上映でならしたバウスシアターならではだろうか。また、あの規模感、映画館だからこそ、演者全てが見えて、ステージとスクリーンのバランスが絶妙で、映像とライブが自然に混ざってひとつの演目となっており、まさにここで観るためのライブ、いや、まるで映画をみているかのような素晴らしい体験だった。 6/ 5(木)シャムキャッツ『AFTER HOURS』release tour final「FROM THE SUBURBS」(渋谷CLUB QUATTRO 『AFTER HOURS』リリースツアーファイナル、クアトロはいい感じの満員。詰めかけた観客からはライブ前からじわじわと熱気が伝わってくる。個人的にはツアー二か所でライブを観る機会があり、このファイナルも感慨ひとしおだった。この日は一部ゲストにバイオリンの亀谷希恵も参加。 全力、がむしゃらだけど斜めで気まぐれな部分も同時に持っていて、スマートだけどどこかユーモラスな部分もあって、飄々としている。そして最終的にはかっこいい、という言葉しか出てこない、この「敵わない」感。終盤感じた音と風景の圧倒的な美しさの中で、またさらに敵わない度合いがあがったのを強く感じた。名盤『AFTER HOURS』を上回るものを次作でぽんと出してきそうだな、と自然と思ってしまう、ツアーファイナルかくあるべき、なライブだった。 6/ 8(日)伴瀬朝彦双葉双一三村京子八丁堀七針 三村京子は初見。静かな気迫、苦しい、痛い、熱い、美しい。目が耳が釘付け、身動きもとりたくない感じ、背筋ものびた。座っているだけなのに、緊張か集中か、汗が出てきた。 双葉双一は以前とルックスが劇的に変わっており、出てくるだけで空気が変わった。観てはいけないものを観ている感じがするのに、絶対に目がそらせない。冷たく突き放されている気持ちにもなるのに、周りを取り囲まれている感じもする。おそろしい引力。 そういう二人に挟まれたこの日の伴瀬は繊細さと優しさが際立っていた。特に、呼吸するように弾くピアノ。七針のアップライトピアノと彼の相性の良さは、一度体験してみてほしい。なお、伴瀬の『カリハラのうた』初演は去年四月で、この日はその日以来の七針でのライブだそうで、感慨も深い。リラックスした様子でMCも自然とはずんでいた。 6/12(木)片想いVIDEOTAPEMUSIC下北沢440 片想いもよくお世話になったという440の店長のフェアウェル・パーティー的イベント。VIDEOTAPEMUSICはbeipanaとMC.Sirafuがサポート。バウスシアターでも披露した『カンフーマンボ』が始まると心踊ってしまう。より個人の丁々発止が際立つ編成なのもそれを煽る気がした。 片想い、突如鹿児島に移住してしまったホルン大河原は欠席で、全曲サポートギターにNRQ牧野が参加。ミニコント~タイトルコールでライブ開始。一曲目から人気曲『山の方から来てくれればいいのに』で、満員の会場は大盛り上がり。アンコール含めた三曲にDJで出演していたcero髙城がゲスト参加。『踊る理由』では繰り返し観た動画と同じ場面が目の前にあり、感動した。アンコールの『東京フェアウェル』はVTMとベーパナも加わり、本日出演者全員で。「またここで会いましょう」と行天店長に向けて演奏されているようだった。旅を続ける片想いだが、送られるよりも送り出すイメージが強いのはなぜだろう。そこに人が集まっては、また旅に出るのだろうか。 6/18(水)「新曲の部屋 vol.6アチコ黒岡まさひろ阿佐ヶ谷Roji 今回の新曲の部屋はRopesのアチコ。最初のトークからさて曲作りに、といったところで、黒岡が、「今日はアチコさんがサーカス団の団長、僕が新入りというていで。」と謎の提案をし、寸劇のような展開に。黒岡がギターを弾き、たまにアチコがカシオトーンを弾く。その上で二人の科白が交錯していく。客にも役を与え科白を繰り返して言わせて、いわば人力サンプリングのような場面も。黒岡の無茶ぶりにあわせるどころかリードしていくアチコの懐の深さ。どんどん物語は転がり関係性が広がっていったが、結末は観客に委ねられた。ある意味これまでで一番ハードで、非常にドラマチックな新曲の部屋だった。 6/19(木)「マン・ツー・マン vol.8」野田薫中川理沙神保町試聴室 とあるイベントのためだけに結成された「野田薫と中川理沙」が、「マン・ツー・マン」で待望の復活!それぞれのソロと二人の演奏、歌がやさしく折り重なっていく。試聴室はいつもと少し違うセッティング、いつもは端に寄せられているグランドピアノが中央に据えられていて、これが思っていたよりも音の印象を変えていたように思う。ピアノに座る演者の表情が観やすいのもよかった。二人の曲のふとしたところに共通点を見つけたような気持ちになった時にそっと嬉しくなる。中川は闇をしっかり抱えている人というイメージがある。だからこそその歌が光になるのかと。野田は昼、中川は夜のイメージ。二人の相性の良さはそういうところからきているのかもしれない。 6/20(金)「カリハラ展」伴瀬朝彦渋谷7th floor 4月発売初ソロアルバム『カリハラ』は完全に一人で多重録音された作品。それをこの日はバンドで再構築するという、真のレコ初ライブだ。伴瀬はE.G、A.G、Pf。ソロで7曲、バンドで12曲(アンコール含む)、バンドは河合一尊(E.G)、遠藤里美(T.Sax)、服部将典(Cb、EB)、みしませうこ(Dr)という猛者が集い、ドリームチーム感が強い。ライブを観ていると、サッカーの試合で、パス回しをみているだけで楽しいのに似た感覚があった。伴瀬の演奏は、メンバーをより前に押し出すような少し引いた姿勢で、自身は歌を丁寧に届けるよう。服部はエレキとコントラバスでタイトかつ豊か、みしまのつつみこむようだが甘くないリズム、テナーサックスとアコーディオンの遠藤はドラマチックかつ艶っぽく歌い、きてほしいところにバシっと決まり、これだー!感に笑みがもれる。一尊は今までに観たことないほどの音量で凶悪なギターソロを放ち、これまた興奮して笑いそうになる(演奏が良いと笑いたくなることが多々ある)。この夜を体験、目撃したら、大阪、名古屋とツアーも追いたくなるのは致し方あるまい。アルバムをリリースすることが、結果ではなく始まりである、というのを実感として強く感じた。 6/21(土)紙コップスジェット達、黒岡オーケストラ(黒岡まさひろ×名古屋学芸大学ブラスバンド部)(鶴舞K.D.ハポン 名古屋の怪人、ジェット達は身体表現+一人芝居という感じ。顔も身体も表情豊かで爆笑のストーリー。一人で何人もの役を同時に演じるのだが、場面転換、カメラアングルの移動を身体のさばき方で表現するのが特徴であり、見どころだろう。迫力、凄味、のちに爆笑。 黒岡オーケストラは、名古屋学芸大学のブラスバンド部員12人を従えた特別編成ライブ。「心の中にあるそれぞれのチューバを探せ」という演目らしい。ブラスバンドの演奏にのせて、黒岡のモノローグや歌が繰り出される、コントとミュージカルが一体となったような形態。ブラスバンド部員同士のやりとりから、いつのまにか悪夢的な妄想、幻覚の世界に迷い込む。そうなるともう、会場はただただ身じろぎもできずに黒岡に釘づけになるばかり。用意されたストーリーはあるようだが、おそらくその場で生き物のように成長して展開は枝分かれし、結末に向けて自走しているかのようだった。なんとなく大団円ぽくフィナーレとなったが、観た人全員、名古屋港に裸で放り出された気持ちになったのではないだろうか。とにかく、えらいものを観てしまった。黒岡のブログ記事当日のダイジェスト映像も是非。 最後はこの日の主役、紙コップス。2枚目のCDリリースのレコ発なのだ。前の二組が完全に目撃系で、果たしてどうなるものかと思ったが、大きな声で良い!といいたくなるライブだった。犬小屋やバケツなどで組まれたドラムセットの見た目に惑わされがちだが、楽曲はポップ、歌詞はちょっとひねったコミカルさ、確かな演奏は、超実力バンドとしか言いようがない。是非ともCDを手に入れて聴いてほしい。 6/22(日)「cooking song vol.2」高橋保行伴瀬朝彦荻窪velvetsun 回数が0から始まっているため、vol.2で三回目となる「cooking song」。料理のレシピから即興演奏に乗せてホラ話をくりだしたり、演奏ではなく一部形態模写になってしまったりと、序盤はゆるさも三回の中でひときわ。しかし、演奏になると話は別。決して圧力を感じるようなことはないのだが、一本裏に張りつめたものを感じて、心地よく背筋が伸びる。二人の演奏のやりとりに、にやりとする。 毎回新曲を披露するという公約通りにそれぞれが新曲を持ち寄る。確か「アイタイとワスレル」というテーマだったかと思うが、伴瀬「アエナイソウル」、高橋「ワスレル」という曲名。定期的に行われるイベントで、新曲が毎回披露されるというのはとても嬉しい。 cooking songは、ホライズン山下宅配便とも、片想いとも、ソロとも違う伴瀬が観れ、高橋との演奏によるソロ曲の豊かさと広がり、高橋曲の自由さとエモさ、美味しい料理…。特濃なイベントなのにさっくり終わるので、終わった後にのんびり飲み食いができる、などなどおすすめポイントが沢山あるので、機会を作ってふらっと訪れて、cooking songを体験してみてはいかがだろうか。
タカクワユキコ
web系仕事をしながら、ライター的な事もしたりしなかったりする毎日。食べたり聴いたり集めたりでかけたりしながらTOTE運営中。
プロフィール画像はジョセフ・アルフ・ポルカのてんしんくんによる似顔絵。
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