COLUMN[2014.07.11]
パッションがそんなに持続するわけないだろ
Vol.4 『2014年5月定期報告』
5月もまあ濃いこと濃いこと。とても遅れてしまいすみません。

「音楽と人」
シンガーソングライターの音楽を聴く、ライブを観るというのは、音、歌、言葉、演奏、とその人自身を切り離すのが私にとっては難しく。勿論その人となりと音楽は別物であるとは思うのだけど、その活動に触れる時、本人(の一部)と音楽とをひっくるめた一つの別の存在というか、キャラクターのようなものを思い描いていることが多くて。その人の音楽を知る前の印象と、ライブを観た後の印象とは、お互いにせめぎあって、実像虚像(虚像は言いすぎか)が頭の中でまじりあう。自分の頭の中のバランスを傍観しながら、目の前の人物の音の温度を感じるような、そんな風にライブを観ている次第です。 

そういう見方なので、普通に知り合いになってから、その人の音楽を知るのは自分の中のバランスとるのが難しいので、避けがちだったりするのです。が、その音楽が素晴らしかった場合の嬉しさは、格別に大きいのだなあ。 当たり前ぽい話ではありますが。
そういう人のライブを5月は何度か観る機会がありました。

※月をまたぎましたが、いなはたえみさん東京ツーデイズだったので、6/1まで含めてあります。

2014年5月 12回 5/ 3(土)ジョセフ・アルフ・ポルカマコガーリポニーのヒサミツ酒井己詳南池袋ミュージックオルグ 酒井はこの日はバンド編成。バンドが加わっても酒井のひとりぼっち感は健在で、歌のもつ強度が浮き彫りになる。ポニーのヒサミツも、調子の悪さをものともしないしなやかさ。マコガーリは初見。シンセ、オーボエ、フレットレスベースの音色、アンサンブルの巧みさと、映像などを使った見せ方の妙。絵本をめくると音楽が流れだすかのような感覚。ジョセフも不安定さをしっかり持ったまま、確固たるバンド感が強まっており、感動をおぼえた。新譜『天声人語』もぜひチェックを。 5/ 7(水)「新曲の部屋 vol.5」Daniel Kwon、黒岡まさひろ阿佐ヶ谷Roji 今回の新曲の部屋は、ゲストのダニエル・クォンが趣旨を全く把握していなかったのと、日本語での意思疎通に限界があったことで、波乱の内容となった。意思の疎通があってこそ、崩していけるのだなと。そこに致命的な溝があり、それを乗り越える何かがないと、離れていったりダメージをうけてしまう。ダニエルが英語で話しているのを黒岡が日本語でリアルタイムで書きとっていくところが黒岡の瞬発力が光る見どころ。しかし、波乱とは裏腹に出来上がった曲は美しかったのだった。 5/ 9(金)「カリハラ発売記念インストアライブ」伴瀬朝彦、司会:シンクロ(新宿タワレコ) 4/2にソロアルバム『カリハラ』をリリースした伴瀬朝彦のインストアライブ。事前告知通り、アルバムでエンジニアをつとめた阿部共成が『カリハラ』ボーカル抜きトラックを流し、伴瀬はピアニカのみ手元に、着席で歌うという珍しいスタイル。じっくりと歌い、インストアと言えど聴きごたえのあるライブ。ライブの前にシンクロ(片想いの片岡シンとホライズン山下宅配便の黒岡まさひろのユニット)の賑やかし、ライブ後にはサイン会も行われた。この日発表された佐藤美代制作の『カリハラのうた』PVも素晴らしく、8月ツアーの発表もあり、ますます楽しみである。 5/ 11(日)白い汽笛&oono yuukiツアー 「春のゆうやみ」白い汽笛セプテット (白い汽笛江崎將史、亀井奈穂子、森雄大石田成美)、oono yuukiトンチ稲田誠+亀井奈穂子(神保町試聴室 oonoは弾き語り。新曲たちはより感情の動き(苛立ちや諦めと向き合うような)が浮き彫りになるような感触。激しくギターをかき鳴らして言葉をたたみかける曲は、こちらも息を止めて聴いてしまう。トンチトリオ、三人の音、声がそこにあるというだけで生まれるもう一つの世界がとても鮮やかだ。白い汽笛セプテットは編成が違うというだけでない進化と深化があった。音のスキマはそのままに、大きく広がっていく。アンコールでたかはしようせいやABS北里を加えて白い汽笛&oono yuukiで『Gado Gado Djakarta』を演奏し、イベントは大団円で終了した 5/15(木)「マン・ツー・マン vol.7」野田薫伴瀬朝彦神保町試聴室 野田企画に満を持して伴瀬登場。先攻の野田は言葉と音を丁寧に紡いでいき、会場は緊張感とともにあたたまっていく。伴瀬の『ネジダンス』をカバーしたが、野田節が確かにそこにあり、にやりとする。伴瀬使用楽器はアコギ、エレキ、そして会場のグランドピアノ。いつもと違い、二人での演奏が四曲ある構成で、伴瀬曲と野田曲半々。ピアノ連弾もよかったが、特に素晴らしかったのは、野田がマイクに向かい、斉唱スタイルで披露した『二次会』。共演者をぐいっと引きあげ引き立て自らも光を放つ伴瀬の力強さと野田ののびのびとした歌のまぶしさを改めて感じた。 5/17(土)惑星のかぞえかた伴瀬朝彦(代官山蔦屋) 代官山蔦屋で行われている午前中のインストアライブに、惑星のかぞえかたと伴瀬朝彦が登場。風に揺れる木の枝葉の緑をバックにした演奏は、第一声から気持ちが泡立つようで最高だった。伴瀬は昨日とうってかわったガットギターのみの演奏で、午前中の空気にも会う柔らかさ優しさだった。一度演奏したのみの新曲に、歌詞そのままで曲をつけなおした『スプリングマン』、曲が変わりつづけて旅をしていく曲があってもいいんじゃないか、と言っていたのが印象的だった。 5/17(土)「まり子の部屋 vol.1」柴田聡子夏目知幸黒岡まさひろ八丁堀七針 柴田の静かに凄味を増す歌は引き込まれすぎてしまう恐怖すら呼び起こす(つまり強く惹かれている)。夏目はバンドの時とはまた違った側面を垣間見れる。より甘く、より儚さがあるけれど、より生々しくもある。そして以前に山下三四郎名義で弾き語りをしていたのとは全く異なるスタイルでの黒岡のライブ。客にはがきを配り、曲のタイトルを書かせて、即興で曲を披露していく。自分でどんどん高くするハードルをぶつかり気味ながらがんがん越えていくパワー、起爆力と瞬発力、まざまざと見せつけられた。何曲か歌った中で、同じ登場人物やモチーフが繰り返し顔を出すのは、オムニバス形式の短編小説のようだった。主催ほそまりの酒とカレーのもてなしも最高な、特濃の夜 5/23(金)「10周年記念プレミア公演"Night Piece"完全再現+α ワンマンライブ」トクマルシューゴ(東京グローブ座) 一人多重録音で作り上げられた名盤を、マジックバンドたちで完全再現する、非常にスリリングで意義あるライブ。10周年記念ということで、演出にも特別感が。ステージのセット、開演前や幕間に流れるメンバーや関係者などの(爆笑)証言の数々、読み応え抜群の豪華パンフレット盛り沢山。見た目にはよくわからないが、どうやらとてもテンションがあがっている様子のトクマルがまた、特別な夜をさらに特別なものにしていた、ような気がしないでもない。この日のライブは10周年記念プレミア公演映像化プロジェクトにより、映像化が決定している。DVDを入手する権利のある人は楽しみにしていよう。 5/25(日)スターロード祭り「声とギター」(阿佐ヶ谷Roji 阿佐ヶ谷スターロードまつりの日に行われる阿佐ヶ谷Roji出入り自由のライブイベント。毎年、常連客のアーティストが多数出演する。お馴染みのアーティストから、レアなソロ活動、あ、この人は音楽やっている人だったんだ!な人まで、さまざまだ。Rojiでしか実現しないおまつり。アベユミコ a.k.a オラリー(片想い)の歌うオーシャンゼリゼの替え歌(スターロードまつりバージョン)がこの日この場所この人たちのつながりを表していて、幸せなのに涙ぐみそうになった。 5/28(水)「不明なアーティスト」oono yuukiKenichi Waga(仙台) 聞き手:Hara Kazutoshi高円寺円盤 oonoは後のトークコーナーが気にかかり緊張した様子だが、歌いだすと感情が溢れ流れるようだった。同時期に作られた新曲はいつもにまして静かな焦燥感が強く、胸を締め付ける。Wagaはマイペースなライブ運び、しかし気が付くと何故か気持ちが持っていかれて帰ってこれない。トークコーナーではWagaの大ファンである聞き手Haraとoonoのやりとりが面白い。両者が好きな曲をかけ語るコーナーでは、『TEMPESTAS』インタビューで自作を語った内容と、oono自身が好きな曲の条件が一致しており、自分がグッとくる音楽を追及しているのだな、というのがわかってとても興味深かった。 5/29(木)「Rule Invisible」OGRE YOU ASSHOLE(渋谷CLUB QUATTRO) 想像や期待をしていても、いつもさらっとこえてくるオウガ。以前に感じていた密室感、暗さよりも、ヘビーな中に風が入ってきて、明るい、カラッとした感覚が強くなってきているように感じる。『homely』あとしばらくは、ガッチガチに再現ライブに近い感じだったのから、ラフさというか、何が起きるかわからない余地を少しずつもたせる感じになっている。わざと残したラフさの部分で、緊張感ありつつもメンバーがセッションして遊ぶ、楽しむ感じにまんまと翻弄される。あっけらかんとしてるのに、凄みは増すばかりだ。アルバムに入るであろう新曲も何曲か披露され、次作への期待は高まるばかりだ。 5/31(土)いなはたえみoono yuuki大久保カフェアリエ 名古屋在住SSWいなはたえみ東京ツーデイズライブ一日目。初共演でツーマンとのことで、緊張感漂う夜。いなはたは初見だったが、声も曲も少し不思議な感覚を覚えた。固さと柔らかさと、引っかかる感じとさらっとしてる感じ、色んな相反するものを併せ持っているように感じる。oonoはいなはたやPA片岡からのリクエストにこたえて、レアな曲(『町のこと』『鳥と嵐』)も披露。普段よりカバー曲も多く、最近の新曲たちとともに聴きごたえあるライブとなった。 6/1(日)「あまやどりの粒子」いなはたえみyojikとwandaてぬぐいmangneng山口茉莉三鷹おんがくのじかん いなはたえみ東京ツーデイズライブ二日目。企画の山口も出演、冷たい水と静かに燃える暗さが伺えて、興味が深まった。てぬぐい+mangnengのあの安心感と知らずにたかまってしまう感じの正体が知りたい。yojikとwanda、ピアノの岡野勇仁を加えた編成は初見。この三人の音が手元に欲しい、と強く思う素晴らしさ。いなはたは前日とはうってかわったリラックスムード、別人とも思えるのびのびさ。昨日のひりひりする感じとあわせてみることで、魅力は増した。初めて観る人の歌に自分が反応できた時に安心したり動揺したりする。その心の動きを楽しむために、ライブを観るのかもしれない。
タカクワユキコ
web系仕事をしながら、ライター的な事もしたりしなかったりする毎日。食べたり聴いたり集めたりでかけたりしながらTOTE運営中。
プロフィール画像はジョセフ・アルフ・ポルカのてんしんくんによる似顔絵。
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