ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #6ゲスト:松田“CHABE”岳二【後編】
SPECIAL[2016.09.21]
ロックンロール・レーベル「DECKREC」主催のネモト・ド・ショボーレ氏が、交友のある音楽、映画、漫画、演劇…様々な場で活躍する多種多様な人たちを迎えて送る、ジャンルレストークセッション「TALKIN' REC TAPES」。
第6回目のゲストは、ニール&イライザやCUBISMO GRAFICOとしての音楽活動を始め、DJやリミキサー、ギャラリー主宰など様々な顔を持つ、松田”CHABE”岳二さんをお迎えしました。二人が親密になるきっかけとなったCHABEさんの新バンド・LEARNERSのことや、同じ歳の二人ならではの音楽話を、前後編でお届けします。
前編はこちら
ネモト:90年代の頭は本当にカオスっていうか、何やってもいい空気感があったよね。
CHABE:それこそ働いてなくても不安じゃなかった(笑)。
ネモト:不安じゃなかったね(笑)。俺、25歳まで家なかったし働いてなかったもん。
CHABE:なんとかなる空気感っていうか。
ネモト:なんとかなるエネルギーが周りにあった。
CHABE:僕はそれがなくなるなって感じたのが、本当にあの2001年の911のテロで。うわっ、これで世界が変わっていくなって、浮かれた気分が一瞬でなくなったんですよね。だから作るものもそこから変わっていった。ちょっとこう自分の中でメロウになっていったというか。
ネモト:その頃、自分の中で印象的な出来事があって。政治的な話だったりは気にはなっているけど、発言とかは自分の中では一線を置いていたし、そういう価値観だったんだけど、ある日、下北のディスクユニオンでレコード見てたら、店内で曽我部(恵一)くんの最初のソロシングル『ギター』が流れて、そこに“戦争にはちょっと反対さ”って歌詞があって「その、”ちょっと反対さ”ってものすごく分かる!」って思ったんだよね。その価値観は今の子にも持っててほしいというか、戦争だけじゃないけど、少しでもいいからそういう意識は持っててほしいなと。
CHABE:2001年から変わったなと思うのは、みんなで楽しいから、ただやってたことを振り返んなくちゃならなくなって、もちろんそうじゃない人もいるし、それでいいと思うんだけど、曽我部くんとかはそういう人なんでしょうね。
ネモト:俺は『東京』出す前くらいの頃、ライブ後に外でお客さんと酒飲んで喧嘩したりとか、そういうパンクな感じの時代の曽我部くんも見てるから、そういう奴がこういう事を歌う、考えているっていうのがね。しかも押し付けがましくなく、さらっと歌っているのが衝撃だったんだよね。
CHABE:押し付けないのが重要だね。俺はこうだけど…くらいがいいんですよ。僕も基本的にはそうしようと思っていて、自分はこうっていうのは言うけど、そうしろとは言わない。
ネモト:人それぞれ考え方も違うだろうし。だけど、圧倒的に駄目なことと、いいことは分かるだろって感じかな。個人的に心の中の支えになってたことは、小西さんが言ってた「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」(吉田健一氏の言葉を引用して発言したもの)という言葉で。その言葉に関しては、震災後にドレスコーズの志磨くんとも話した事があったんだけど、みんなそれぞれの価値観で色々考えてると。無関心が一番駄目だなって。
CHABE:ちょっとでも考えてたら、何か表現に出てくるはずだからね。小西さんは事あるごとに影響を与える言葉をくれるんですよね。僕がソロをやる時にも「チャーベくんはいいDJしてるから、いいDJはいいミュージシャンだと思った方がいいですよ」って言ってもらった事があって、それでソロアルバムを作ろうかなぁって、やっていいんだって思えたんですよね。
ネモト:そうだったんだね。時代の空気っていうのは、その時代のいろんな表現に現れてるから、LEARNERSはそういう意味で今の時代のバンドだと思う。ポリティカルなことを歌ってるわけじゃないんだけど、今の時代でしか表現できないことをやってる、しかも自分の曲じゃない曲で。
CHABE:(笑)。The Specialsの感覚なんですよね。僕の中ではThe Specialsの1stの感覚で、まぁオリジナルもあるんですけど、ほとんどカバーだから。
ネモト:あぁーなるほどね。でもそれは凄いことだと思っていて。LEARNERSのツアー同行してすごく感じた。昔ちぇるしぃってバンドがあったでしょ?
●はい、あの伝説の。
ネモト:当時ギターウルフのセイジさんも絶賛してて、その後の毛皮のマリーズやみんなが影響された暴力的なロックンロールでカリスマ的なバンド、ちぇるしぃのギターやってた竜さん(柴山竜介)って人がいて、今は京都で貸し自転車屋さんをやってるんだけど、もう全然音楽興味なくなって、ギターも全部売ったって言ってて。で、俺がLEARNERSの動画をあげてたのとか見てくれてて、LEARNERSが気になってたみたいで、大阪のライブに来てくれたんだよね。そしたら、その日にメールがきて「全部売ったけど、またギター買うわ」って。ああいう奴をそうやって動かす力があったんだなって。
●いい話ですね。
ネモト:誰が言っても動かなかった奴が、LEARNERSによって動いたのが面白くて。全然別の場所にいる違うバンドが影響を与えるっていう。LEARNERSには希望があるんだよね、キラキラした感じが。
CHABE:僕も動かされてるみたいなもんなんで。やんなきゃって思ったというか、これはやらなきゃバチがあたるなって。一回目のライブの時に思った。で、その時にすぐリリースしたいって話をもらって。
ネモト:それがCHABEくんのキャリアとか紗羅ちゃんのキャリアがどうこうとかじゃないから。
CHABE:そうなんですよね。バンド界隈は紗羅を知らない人も多いんで。僕なんてマイナスからスタートするようなもので、みんなの目からすると「あいつがやってるんでしょう?」って。
ネモト:でも、俺の周りのガレージ界隈の人たちも引っかかった人多かったからね。しかもLEARNERSがカバーしてる曲って、ものすごい王道、言って見ればベタな曲なんだよね。マニアックなシーンだと、普通はみんなが知らないような曲をやるのがかっこいいっていうのがあったりするけど、そうじゃない。竜さんが面白いこと言ってたんだけど「誰がやってもかっこ悪くなる曲をかっこよくやってた」って。
CHABE:(笑)
ネモト:それって、実はすごく難しいことなんだよね。
CHABE:確かに『DA DOO RON RON』とかベタすぎてできないですよね。
ネモト:『(LOVE IS LIKE A) HEAT WAVE』とかね。パンクの人からしたら『TEENAGE KICKS』とかもそうだし、怖くてできないもん(笑)。でも、そこにはこういう曲好きだし、みんなも好きでしょ?っていうサービス精神とか、チャーベくんのDJ的な感覚もある気がする。