ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #5ゲスト:フミヤマウチ【前編】
SPECIAL[2015.04.14]
ヤマウチ:ネモトくんをネモトくんだって認識した時には、ネモトくんはデキシード・ザ・エモンズの近くにいる人で。俺はザ・ヘアの近くにいて。80年代末のネオGSの後にもう1度、GS研究家の黒澤進さんを中心にGSの盛り上がりがあって、その時の4大バンドがザ・ヘア、デキシード・ザ・エモンズ、ザ・ハッピー ズ、ルルーズ・マーブル。ザ・ヘアとザ・ハッピーズはラヴィン・サークルっていう黒田マナブさんのレーベルで、デキシード・ザ・エモンズとルルーズ・マーブルはOZ DISCっていう田口さんのレーベルだった。
ネモト:いまは円盤の店長の田口さんね。
ヤマウチ:で、そこにちょっとした対立構造があって。
ネモト:具体的に何があったわけじゃないんだけど、暗黙の、お互いの姿勢・美意識の違いだったんじゃないかなって。
ヤマウチ:具体的になかったわけでもないんだけどね。一度、その4バンドが一堂に会するイベントがあって。
ネモト:俺、それいた!クアトロでしょ?
ヤマウチ:そうそう。それはイベントとしてはすっごいよかったんだけど、進行の不手際やいろいろなことの積み重なりでちょっとした溝ができてしまったの。
ネモト:それまではみんなで一緒にやろうっていうのはなかった?
ヤマウチ:それはなかったよね。和モノってひとくちで言っても細かいトライブのモザイクがあって。すっごい研究肌のグループがいたり、クラブでやる俺らがいたり、純粋にバンドだけでやるデキシーがいたり。
ネモト:カルチャーとしての美意識とか学者気質の人とかの違いがね。
ヤマウチ:そう、色々あったよね、ひとことで和モノって言っても。
ネモト:ひとつ聞きたいのは、「幻の名盤解放同盟」は当時どんな立ち位置でいたんですか?
ヤマウチ:いや、そこはまた別の解放区っていうかさ、横ってよりもむしろ上位にいる存在感っていうか。
ネモト:(その中心人物だった)根本敬さんとかは、さとうさん的にはどうだったんですか?
ヤマウチ:多分リスペクトしてたと思うよ。
ネモト:あそこは田口さんから見てもOKで、さとうさんから見てもOKだったんだ。
ヤマウチ:実際に「幻の名盤解放同盟」経由で知ったこともいっぱいあるし。
ネモト:「スナッキーで踊ろう」とかね。
ヤマウチ:サトー・ノトの「ドッキング・ダンス」とかね。その「幻の名盤解放同盟」とか黒沢進さんとかコモエスタ八重樫さんとか、諸先輩に対しての敬意は絶対的にあるんだけど、横の境界を横断するっていうのはなかなかありえないことなんだよね。もうちょっと後に「喫茶ロック」っていうのがあって、タワレコで働いてた行達也さん(元mona records店長)も関わっていたから俺も頼まれて書いたんだけど、そしたら北沢さんに「ヤマウチくんがあそこに手を貸すなんてちょっとがっかりだな」って言われて(苦笑)。
ネモト:(笑)。それはちょっと分かるな。
ヤマウチ:同じものを好きなはずなのに、実践方法とか伝え方、言語感覚とかの違いで、完全に別モノだった、そういう時代。
ネモト:それぞれの解釈の仕方によって派閥があったってことだよね。
●お客さん的にはどうだったんですか?
ヤマウチ:お客さんはまったく関係ない。
ネモト:きっとお客さんがいちばん自由だったよ。
ヤ マウチ:お客さんはどこにでも行く。でもその初期においては、緊張感のあるシーンだったんだよ。だから僕とネモトくんは違うところにいる感じだった。昔の学生運動みたいな、同じ革命を目指してるのにそこに至るまでの思想が違うから色んな団体があって抗争があるみたいな図式が、そこまでおおげさじゃないにしても、あった。
ネモト:やっぱりね、政治ってあるんだよ~。
全員:(笑)
ネモト:でもそういうのがあったから良かったなって今は思える。当時は自分たちの価値観と違うものに否定的なこと言ったりしたけど、そんだけその時の自分の美意識に真剣だった。簡単に「これもいいけど、あれもいいよね」って言っちゃうような人は排除される。
ヤマウチ:コウモリ野郎っていうのはあまりいなくて。でも僕はDJ BARにいたりしたこともあって、意外とコウモリ野郎だった(笑)。
ネモト:そういうところが似てるなぁと思ってた(笑)。
ヤマウチ:コウモリ野郎っていうとアレだけど、単純にどれも好きなの。
ネモト:そうそう。
ヤマウチ:俺はデキシード・ザ・エモンズも田口さんのやってるOZ DISCの作品も大好きだったし、一方でザ・ヘアと北沢夏音さんのやっていることが世界一ヒップでかっこいいと本気で思ってたから。
ネモト:ひとつのところだけ追求してくれる人たちがいたから、その価値観が出来上がって、それに影響受けることが出来たし、掘り下げて深く聴くことが出来たから、本当にありがたかった。
ヤマウチ:今もそういうのあるのかな。ヒップホップはありそうだよね、ファミリーが違う、みたいの。