ネモト・ド・ショボーレ対談連載
TALKIN' REC TAPES #1ゲスト:渡辺大知(黒猫チェルシー)
SPECIAL[2014.04.02]
ロックンロール・レーベル「DECKREC」主催のネモト・ド・ショボーレ氏が、交友のある音楽、映画、漫画、演劇…様々な場で活躍する多種多様な人たちを迎えて送る、ジャンルレストークセッション「TALKIN' REC TAPES」。第1回目のゲストは黒猫チェルシーのボーカルであり、俳優・映画監督としても活動する渡辺大知さん。ここでしか聞けない話が満載です!
ネモト:大知君に聞きたいこと、いっぱいあったんだよね。
●こうやって二人で会って話すことは結構あるんですか?
渡辺:ネモトさんが下北に住んでた時はよく会ってましたね。
ネモト:黒猫チェルシーがまだ神戸にいた頃は、東京に来たらうちに泊まったりしてたからね。一緒に家探ししたりしたよね。その頃大知君いつも学生服だったから、40歳位の男が学生服の子を連れ回してるのは怪しいから、俺が親族のふりをしようって。
●(笑)。
渡辺:設定的にお父さんの弟みたいな。わざわざ「お父さん何か言ってました?」とか「おじさん的にはどう思いますか?」とか言って(笑)。
ネモト:結果全然怪しまれなかったんだけど、その後商店街を二人で歩いてて、「古道具屋さんがあるね」って入って出てきたら、警察官が待ち構えてて「どういう関係ですか?」とか職務質問されて(笑)。
渡辺:面白かったですよね(笑)。それから上京してもう5年経ちました。
ネモト:そんなに経ったんだねぇ。
●お二人の最初の出会いは?
ネモト:「黒猫チェルシーのCDをDECKRECで出しませんか?」って話があって、それで初めて会った。その時も「映画観るのが好きで、アメリカンニューシネマが好き」とか言っていて。
渡辺:そんな話しましたっけ?覚えてないなぁ。映画学科の大学に進学するのを決めてたのもあったかもしれないですね。
ネモト:あと映画にも出てたしね。
渡辺:あぁ『色即ぜねれいしょん』の撮影が終わってすぐ後でしたね。
ネモト:大知君と竜ちゃん(黒猫チェルシーのギター・澤竜次)は何故だかわからないけど、最初から凄く気になる子だったんだよね。話が噛み合わない感じも面白くて。一生懸命伝えようとしてるんだけど…。
渡辺:東京来てから話す練習とかしてましたからね。
全員:(笑)
渡辺:高校の時がひどくて、あんまり人と話せなかったんで。あんだけ仲良かった澤に卒業してから「結局高校の時、渡辺が何言ってるか一回もわかったことない」って言われて、それがショックで。
全員:(笑)
渡辺:初対面からネモトさんは大人の仕事する人って感覚なかったんですよね。レコード会社とか大人の人と会うのが初めてだったから、スーツの人が来るとか思ってたし、負けないようにしないととか思っていて。
ネモト:そういえば大知君革ジャン着てたよね。で、俺も革ジャンだった(笑)。
渡辺:肩の力がすこんと抜ける感じでした。
ネモト:それからすぐうちに遊びに来たよね。
渡辺:ネモトさんのうちに行った時も衝撃でした。本とレコードが沢山あって。
ネモト:40歳で漫画とレコードとおもちゃに囲まれてるっていうのもおかしいよね(笑)。あの頃から大知君がずっと着てる学生服さ、あれ中学の時の制服なんでしょ?
渡辺:そうっすね。今もあれ着てるんです。
ネモト:ペンキ塗ってね。何年着てるの(笑)?
渡辺:10年近く経ってますね。
ネモト:何で学生服着ようと思ったの?
渡辺:学ランが好きだったのもあるし、フォーマルな服でパンクをやるみたいなのがかっこいいかなとか色んな理由があって。僕、一番のバイブルの漫画がドカベンなんですよ。マインドとして自分を作ってくれたものとしてドカベンがあって、あの学ランをばさっと羽織る感じとかバンカラ感みたいのに憧れてたんです。変なんですけど憧れたのは周りの奴らで、山田を倒そうと取り囲む雑魚キャラの奴ら、そいつらの学ランの羽織り方がちょっとださいんですけど、なんとか頑張ってかっこつけてる感じ、どうにか学ランで自分のキャラを作ろうとしてる感じが好きで。だからライブで学ランを衣装にして、例えばペンキが飛んでも拭わないっていうか、ライブしていく過程で汚れていくとそういうのになるんじゃないかと思って。
ネモト:なるほどね。
渡辺:あとは学ランをライブ衣装にしているバンドがいなかったから、じゃあいけるかもって。その時私服も学ランだったんですよ。
ネモト:あの頃、東京来てもいっつも学ランだったよね(笑)。
渡辺:私服もいつ汚れてもいい服を絶対着てるんですよ。でも去年位から最新のものに興味あって。それと自分の好きな古き良き日本にあったマインドを結びつけたい感じはありますね。
ネモト:そういう感じって、音楽としてはバンドよりソロの方が色濃いよね。
渡辺:そうですね。バンドは4人の融合で全く別の人格でやってる感じはありますね。
ネモト:『東京』とか異色だもんね。大知君のソロの中では当たり前のようにあるけど。
渡辺:あれは黒猫でやれて良かったなと思ってますね。
ネモト:竜ちゃんもそういうもの持ってるしね。
渡辺:俺と澤には似てるところがあるかもしれないですね。
ネモト:ワビサビっていうか泣きの部分が好きとかさ。
渡辺:フォーク感、ブルース感がありますね。

●対談の1回目に渡辺さんを指名したのは何故だったんですか?
ネモト:二人ともロック、音楽が好きだけど映画も漫画も好きなので。そういうことを話せるミュージシャンって限られてくるんだよね。あと大知君って映画もよく見てるし映画も撮ってるけど、そういう話って外でしてないなって思ってたから。大知君、最初の映画って何年前に撮ったの?
渡辺:4年前ですね。
ネモト:あれは学校の授業の一環で撮ったの?
渡辺:いや、勝手に撮りました。
ネモト:その『ワルツ』って映画が凄い良くて、もの凄い作家性があるなって思った。自主映画でお金も技術もない状態で撮って、だけどもの凄くいい記憶に残るシーンが何ヶ所もあって。夕暮れでUFOが飛ぶシーンがあって、いかにも作り物でちゃちいんだけど、笑っちゃうような感じなのに無茶苦茶泣けてきて。あの時大知君が出来る100%をやってるなって思った。今ならもっと奇麗に出来るんだろうけど、もうあの時しかあれ出来ないと思うんだよね。
渡辺:めっちゃそうだと思います。
ネモト:バンドって1stアルバムを越えられないものって絶対あるんだけど、映画監督としての大知君はあの映画に越えられないものがいっぱい詰まってると思う。
渡辺:確かに、今になって気に入り始めました。
ネモト:いやぁ、あれはいい映画だよ。
●その映画は表には出してないんですか?
渡辺:出してないですね。
ネモト:仲良くしているSPOTTED PRODUCTIONSの直井さんに見せて、そしたら直井さんも大絶賛して去年のMOOSIC LABの時に「招待作品で上映したい」って言ったんだけど、大知君は「次の作品がいいんで」って断って(笑)。出演者も豪華なんだよね。(銀杏BOYZの)峯田君も出てるんだけど、でもそこに頼ってなくて。上映する機会が欲しいなと思うんだよね。
渡辺:実は今回撮った長編流す時にくっつけて上映したいなと思ってるんです。
ネモト:いいね。色んな人に見て欲しいな。
渡辺:情報が多い時代に育った年代の実感として、もはや音楽は音楽、映画は映画として見てないというか。僕らが見てるのは音楽で何が表現されているのかとか、この人は何を見たくて音楽をやっているのかとかそういう風に見るんですよ。だから自分が興味を持った音楽と映画、映画の前は舞台が好きだったんですけど、音楽と映画と舞台、本でも何でもいいんですけど、そういうものがジャンルに縛られない、一言で音楽って言えない新しい何かが生まれて全然おかしくないって思ってて、それをやりたい。
ネモト:直井さんのやっているMOOSIC LABはMOOVIEとMUSICのコラボで出来ているもので、だから『ワルツ』を観て、直井さんと「これは完全にMOOSICだね」って。映画として拙い部分はあるけど、映画作りたいっていう気持ちが…
渡辺:もう気持ちだけでいってる(笑)。
ネモト:そのテンションが伝わってくる。映画撮りたいなって言って撮らない奴とかバンドやりたいって言って組まない奴とかいるけど、だったらやる、やるかやらないかの、やってる人の方が好きだから。それを大知君は映画でもやっちゃったっていうのが凄いなって。
渡辺:映画を作る時もあんまり映画って言えるかわからないようなものに興味があって。音楽聴いてるみたいなものにしたいというか。
ネモト:『ワルツ』は音楽も大知君がやっているっていうのが重要だよね。映画の中で使われてて、今もソロのライブでやってる『ワルツ』って曲が本当大好きで。あの映画のためにある音楽だし、あの音楽のためにある映画だしっていう両方だから。MOOSIC LABってそこを目指してやってるけど、大知君はそれをさらっとやっちゃった気がするの。
渡辺:あれしか出来なかったからだと思いますけどね。出来ることが限られているから、全然悩まなかったです。
ネモト:その後もう1本撮ったよね。
渡辺:あぁ、OKAMOTO’SのPVになっているのですか?8mmで撮ったもので、一応バスター・キートンのパロディなんです。
ネモト:オリジナルバージョンは音楽が違うんだよね。タイトルなんだっけ?
渡辺:『蛙』です。あれはOKAMOTO’SのPVに使ってもらって凄い良かったなって。映画を作ったんだけどPVになっちゃうみたいなことがしたかったんですよ。それでもしっくりくるものというか。あんな映像今時ないだろって感じなのに(笑)。わざわざ真横に曲がるような三脚買って、全ショットカメラを横にして。めっちゃ楽しかったです。バスター・キートンの大ファンなんですよ。元々はチャップリンが好きで、でもチャップリンは愛を表現しようとして愛を映してるし、悲しみを表現しようとして悲しみを表現してるイメージで。バスター・キートンは悲しみで愛を表現してたり、笑わせてんのになんか泣けちゃうみたいな感じが良くて。
ネモト:『蛙』はそういう悲喜劇みたいな感じあったよね。
渡辺:音楽でも映画でも自分が大事にしたいなって思っているのは、強さと弱さの両極。「ポジティブ!」っていうのも「俺駄目ですから」っていうようなネガティブな曲も嫌いなんですよ。どっちも人を幸せにしないなって思っちゃう。人間って暗いんだけどポジティブに感じたりとか、ポジティブな奴ほどネガティブに見えたりとかする。その両面性が曲に表れてて欲しい。だから『東京』って曲はまさにそういう思いで作りました。悲しいけど燃えてる、その二面性の共存。いいなって思うのは全部そうな気がするんです。
ネモト:かっこいいだけでも嫌だし、拗ねて卑屈なだけでも嫌だしね。
渡辺:そうなんです。人間くさい感じが出したい。自分にとって見たいものっていうのはざっくりしてるけどロマンみたいなもの。一人の力では思いもしなかったことが、人とやることで、化学反応によって見える景色みたいなものとか。