Analogfish「KYOTO TO TOKYO 2017」2日目、"EPIC"と名づけられたこの日のライブは、EPICレコードからリリースした『アナログフィッシュ』(2004年)から『ROCK IS HARMONY』(2006年)までの作品からの選曲。これまでの「KYOTO TO TOKYO」でも、最新の曲や初披露の曲に交じって古い曲が演奏されて、旧曲特有の鋭利さに胸が痛くなるのを体験してきたが、今日演奏されるのは全て、2006年以前の曲なのだ。ライブ中どんな気持ちになるのかわからず、落ち着かないまま開演を迎えた。 佐々木健太郎(Vo. Ba.)、斉藤州一郎(Dr. Vo.)、下岡晃(Vo. G.) 3人が登場し、昨日よりも大きな歓声があがって、ゆるい斉藤のカウントから『白黒ック』、『ラジオ』、『LOW』と、メジャー1stアルバム『アナログフィッシュ』の最初の3曲を連続で。その並びに胸が熱くなる。絶妙な力関係のスリーピース。でかい声のボーカルとがなるように追いかける全力コーラス。ねじれていてスリリングな曲展開。初っ端から密度が濃い。これがあと2時間続くと思うと楽しいような、覚悟を突きつけられているような、不思議な感覚になる。続いてこれも1stアルバムより、『確信なんかなくてもいいよ』。とにかく熱く激しい。佐々木が書いた古い曲は鬱屈をパワーで押し切る世界観で成り立っているのだけれど、それが特に際立つ曲だ。昔のアナログフィッシュが色濃く表現していた、焦燥感、やるせなさ、低めの自尊感情といったものがよく表れている序盤の4曲だった。 近年、ギターをまったく弾かない曲がある下岡が、この日はギターを弾きまくる。ハイハットのペダルを踏む斉藤の左足も激しく上下に動く。まるで全身を使って踊っているかのよう。ここまで演奏して下岡が思わず「速いしうるさいし、変な曲ばっかり!」と叫んでしまうくらい、この時代の彼らの曲は異彩を放っているのだった。
次はラブソングが続くターン。柔らかいコーラスが美しい『ガールフレンド』。この曲は派手ではないし、「変な曲」でもないのだが、私はこの曲をライブで聴いた時、ドラムという楽器は「歌える」のだと初めて気づいたのだった。主にリズムとテンポキープのためにあるドラムだけど、斉藤のドラムはギターやベースなど他の楽器よりも歌っている。ドラムの役割について鮮やかな概念の転換が起こった、個人的に思い入れのある曲だ。続く『Queen』では優しく甘く、ちょっとねじれた恋を歌う。そして『月の花』と『僕ったら』は、どちらも曲の後半に向けて登り詰めていくダイナミクスがロマンティックだ。 佐々木のMCが面白かった。「昔の曲はフレーズや歌詞がものすごく若くて、身体がついてかない(笑)。曲が運動会みたいなんです! 音楽っていうか騎馬戦みたいなんですよね」と言うと、斉藤がそれに同意。その様子を見て下岡が「お前ら2人よくわかんないよ! なんで通じ合ってるんだよ!」とツッコミを入れたので場内爆笑。佐々木がさらに「10年くらい前に州のお父さんが僕らのライブを観に来て、州に言った感想が『運動会みたいだな!』って」 と言うと、またもや場内爆笑。そんなやり取りの後、元気よいカウントから 『行くのさ』。その一連の流れに客席が和む。 続いて『Living in the City』。この曲は、その後の下岡の歌詞世界を広げたのではないだろうかと私は思っている。『Hello』でひとり世界と交信していた少年が、この曲で鮮やかな街に出ていく。そして街の中で「君」と出会う。例えば『はなさない』や『No Rain (No Rainbow)』で、僕は「君」と会話したり恋をしたりするのだ。私はそんな風に思っているのだけれど深読みしすぎだろうか。続く『マテンロー』はシンプルだけど厚い音が際立っていて、今の彼らの音と演奏力で聴くと気持ち良い。そして、ライブで演奏されることがあまりない、『世界のエンドロール』! 変拍子が連続する、正真正銘の「変な曲」。演奏後、佐々木が「この曲、騎馬戦度合いが高い!」と言い、さっきは否定していた下岡も「ちょっとわかってきた! 格闘感あるね!」と返す。確かに、聴いていて曲の展開についていこうと必死で身体に力が入ってしまったし、音と音の衝突はまるで肉体と肉体の衝突のようだった。この佐々木と下岡のやりとりに、客席から納得(?)の笑いが起こった。 『Town』のイントロが鳴って大きな歓声があがる。「君の住むTownはどう?」に対するレスポンスの声が大きい。昨日の『荒野』に負けない気迫。旧曲の中ではライブでやることが比較的多く、長く愛されている曲だと実感する。そして『のどかないなかのしずかなもぐら』と続く『ハーメルン』は、不穏なメロディがやたらと磔磔という場所にマッチする。そして、この流れからの『バタフライ』! 個人的に初期曲で一番好きで、この日磔磔で一番聴きたかった曲だった。酔いそうな浮遊感の中を漂いながら後半徐々に高まっていって、 「らっせー!」の叫び以降の演奏がソリッドで最高だった。 『ナイトライダー2』、夜の中、車が流れていていく様子が目に浮かぶ。アウトロから続けて『世界は幻』へ。歌われているのは閉じられた空間なのに、世界が広がっていく感じがして不思議な感覚に陥る。佐々木の演奏が激しく、ストラップが切れてしまいしゃがみこんで弾く。曲が終わって下岡、「ストラップが切れて外れる感じも懐かしいね。昔はよくあった」と飾らず素になって昔を思い出す彼ら。場の緊張感が解き放たれ、空気がふっと緩んだ。
「ライブとしてはここからが終盤だけど、ここからがやばい! しっかりついてきてください!」と下岡が言い、『Hello』! EPIC時代のライブ定番曲。さらに「Do you still need BGM?」という問いかけから『BGM』。このやりとり、懐かしい! BGMであることを拒否するミュージックに踊らされるのがとても楽しい。フロアが盛り上がる中、佐々木が「スピード!」と叫んで『スピード』。速い速い! ステージ上もフロアも盛り上がりっぱなし!そして間髪入れず大名曲『アンセム』へ。この曲は、佐々木が憂鬱をポップさに昇華できるようになった原点かもしれない。『スピード』と『アンセム』、シングル曲が2つ続けて演奏されて、フロアの熱気は最高潮に。 下岡が静かに「次の曲を初めてここでやった時のことをよく覚えてて、これを今日最後の曲にしようと思います」と語って『夕暮れ』。思い返すと、私が初めて磔磔で『夕暮れ』を聴いたのは2006年だった。「魔物がいる」と形容される老舗のライブハウスでこの曲を聴いて、濃厚さにクラクラした記憶がある。この日の『夕暮れ』は歌い出しが音源に近いアレンジで、思わずノスタルジーに浸ってしまった。そういえば、この曲に限らず今年の「KYOTO TOKYO」ではこれまでよくやっていた旧曲のリアレンジがほとんどなく、どの曲も音源のアレンジに忠実にやっていた。そういう点でも貴重なライブだったのではないか。前日と同じく23曲を演奏して、本編が終了した。 アンコールは『出かけた』。イントロが叙情的に立ち上がり、最後に感情が、演奏が静かに爆発していく。この曲は、特別なライブに彼らと共にある。病気で脱退した斉藤が復帰した2009年の新木場コーストで、彼らにとって大きな挑戦だった2011年の日比谷野音で、聴く者の心を丸ごと吹き飛ばしていったこの曲で彼らの"EPIC"を、そして彼らの長いキャリアを振り返る2日間を締めくくった。 2017年4月9日のライブを最後に、しばらくバンドでもソロでもライブ活動を休止するAnalogfish。下岡は休止について、「僕たちライブをしばらくお休みするんだけど、いいアルバムができて準備ができたら、またはじめようと思っています。こんな楽しいこと(=ライブ)を休むなんて俺たち本当に馬鹿だなって思うけど(笑)、でもfelicityに移って5年間でひとつ到達したことがあったので、シフトチェンジをちゃんとしたいという気持ちがあります。楽しみにして待っててくれると嬉しいです」とその意図を語る。一方、佐々木は「これから制作に入って、最高のアルバムを作ろうと思うんで、ちょっと休みますけど心配しないでください。俺たちおっさんがキャッキャしながらやってくので(笑)」と言い、フロアは爆笑、そして拍手。2人の言葉を聞いて、心配する気持ちは微塵もなくなった。 しばらくライブがないということは、ライブで新曲が披露されることもない。ということは、次回の新譜は聴いたことのない曲ばかりが並ぶということだ。Analogfishは新曲をすぐライブでやってしまうバンドだから、未聴曲ばかりの新譜をファンが手にすることは今までになかったはずだ。そう思うとライブが観れない寂しさは意外になくて、楽しみがひとつ増えた!という気持ちの方が上回る。さあ、次はどんなテーマで、どのフェーズで、どんなモードのAnalogfishになって帰ってくるのだろうか。期待値を最大限に上げて待とうと思う。 (文章:山岡圭)
SET LIST "EPIC"