■2014.04.28 神戸VARIT./2014.04.29 京都MUSE
髭 HiGE with in “DECADE”
REPORT[2014.05.24]

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髭がインディーズでデビューしてから昨年でちょうど10周年。その節目を記念し“DECADE”と題したライブ企画を立ち上げ、昨秋より全国各地で精力的にライブが行われている。今回、開催された「HiGE with in “DECADE”」は、公式サイトで実施した「髭と対バンしてほしいバンド」アンケートの結果を踏まえ、なおかつメンバーのお気に入りのバンドがブッキングされたリクエスト企画ライブ“with”の記念すべき第1回目。47コの都道府県がある中で今回白羽の矢が立ったのは、神戸と京都。「この後、九州に行くわけでもないし、北海道に行くわけでもなく、この2日間だけの関西ツアーに来ちゃった。だって関西が好きだから」(須藤 寿)という秒殺MCにも沸いた2日間の模様をお伝えします。

ホストである髭が第1回目のゲストに選んだのは、きのこ帝国。西村“コン”(Drums)、谷口滋昭(Bass)、佐藤(Guitar&Vocal)、あーちゃん(Guitar)の男女4人で 2007年に結成され、2012年にアルバム『渦になる』をリリース。関西では、この2月にEP『ロンググッドバイ』リリース記念のワンマンを大阪(ソールドアウト!)で行っているが、神戸でのライブは2年ぶり、京都も久しぶりのステージだったよう。
両日とも、ゲストのきのこ帝国が先に登場。mouse on the keys『最後の晩餐』のピアノが静かにゆっくりと会場に広がっていく中、4人は現れた。照明を落としたほぼ暗闇状態の中、1曲目の『退屈しのぎ』はとても静かに始まった。と思ったのも束の間で、曲が進むにつれ音はどんどん歪み、大きく展開していく。ジョイ・ディヴィジョンのTシャツを着た佐藤の声はとても澄んでいて、ガシャガシャした音の渦の中でとても静かに呼吸するように歌い続ける。赤い照明が似合う曲『ユーリカ』。谷口のコーラスが寄り添う『WHIRLPOOL』(神戸のみ演奏)、『パラノイドパレード』あたりで、それまで直立して聴いていた人の肩が、少しずつ揺れ始めた。「こんばんは。はじめまして、きのこ帝国です…」とMCをするのは、あーちゃん。「今日は、っていうか私たちはいつもこういうちょっと暗い感じ…なんですけど、どうですかね?!」と緊張感の伝わるMCをする一方で、大きくスウィングしながらギターを弾き倒すあーちゃんはとても男前だった。

それまで長い前髪に隠れてほとんど見ることのできなかった佐藤の表情がはっきりと見えた。足下を見つめていたのか、どこを見ているのかわからなかった目はまっすぐにこちらを向いて、歌いかける『夜が明けたら』。いくつものひっかき傷を重ねていくようなギター音を聴いているうちに、彼らの奏でる音楽に自分の体が溶けていってしまえるような感覚にとらわれる。周りには大勢の人がいるけれど、自分ひとりと4人の奏でる音楽だけがこの世界にあるような親密感。「伝えたいことなど とっくのとうにない」「きっともう会えない」。面と向かって言われたらあまり嬉しくなさそうな言葉が、佐藤の声を通過すると、なぜかとても心地よく響いた。ティンダースティックスのような優雅なけだるさ。マーキュリー・レヴのようにひっそりと夢を見るような心地よさ。轟音の深い森の果てに確かな光が見えるマイ・ブラッディ・バレンタイン。これまで折々に触れてきた音楽が全部、今夜ここできのこ帝国に出会うための序奏だった気さえしてきた。
そのきのこ帝国を、髭の須藤(Vocal&Guitar)は「すごく“そっとしてる”バンドだよね」とMCで紹介した。「(きのこ帝国は)ビール3杯ぐらい飲んだら割れちゃうような、薄い薄いガラスのコップみたい」とは、さすが詩人の表現。初日・神戸での1曲目は『ネアンデルタール Punks Fuck Off!』続いて『I‘m so sick』『2人はブルージーンズ』と髭の10年間を行ったり来たりするやりたい放題な選曲。2月に東京で行われた須藤の生誕記念5日間連続ライブでは、インディーズ時代の曲だけをプレイする日やファン投票による人気曲でセットリストを組む日があった。その逆に、嫌いな髭の曲を募集してプレイするライブが同じく東京で4月のはじめにあったばかり。冒頭の曲は2月と4月のライブでも演奏されていたけれど、関西でプレイするのは随分久しぶりで「みんなの投票のおかげで昔の曲とかレパートリーが増えちゃって楽しい」と。とともに須藤のソロ、GATALI ACOUSTIC SETで活動を共にし、今年3月からサポートメンバーとして髭に参加しているゴメス(Key&Guitar)を紹介しながら「髪がもじゃもじゃでしょ?彼はビートルズが大好きなの。『Sexy Sadie』弾いてみてよ」と。なぜにその曲を。

関西では初めて披露された新曲『Virago』はほどよくゆったりとしたテンポで、そこから『Economic Alien』の流れはフラリと酔ってしまいそうな心地よさ。2014年の最新のモードから、一気に10年以上前のジャンクな楽曲にひとっ飛びしてしまうあたりもなんと痛快な…と思った瞬間、まるで歌うように「あー、全然歌詞が出て来ないわ!」と須藤が言った。笑ってごまかすでもなく、いたって普通に、そして何事もなかったかのようにごにょごにょと歌い続ける姿に、思わず天井を向いて笑ってしまった。そういえばこの日のアンコールで『君のあふれる音』をゴメスと二人だけの弾き語りで披露した際も彼は、最初のフレーズを歌った直後に「びっくりするほど歌詞が出て来ないね!」と一旦歌をストップ。手渡された歌詞を見ながら「ふーん。あの時の俺、こんな感じだったんだ」と大きな独り言をつぶやいている最中、フロアでは「歌詞見ながら歌えばいいよ!」「見ればいいよ!」という声があちこちから聞こえてきてまたも笑いが止まらない。一見アクシデントに思えるような出来事も、たいていの場合「髭だからOK」と受け流してしまえるタフなイージーさを聴き手は身につけていて、歌詞を忘れたとか同じ曲を2回やるとか、そんなことを誰も気にしない。それよりもっと素晴らしい瞬間がこのライブにあふれていることを、誰もがわかっているから。髭ってそういうバンド。そのあたりはさすが十年選手。
翌日の京都。神戸とは一部セットリストを変え、この日もひんやりと熱のこもったステージを繰り広げたきのこ帝国に続いて、髭登場。本編のセットリストが前日と重複しないことは事前にアナウンスされていた通り。この日は男性ファンの姿が多く目につき、『サンシャイン』でゆったり始まった時には聴き入っていた彼らも、『ブラッディ・マリー』『なんとなくベストフレンド』『ギルティー』と初期衝動むき出しの曲が続けば一気に沸騰。ヒーヒー、ワーワー言いながら踊り狂う姿が楽しさを増幅させる。前日の『Virago』同様に関西では初めて聴く新曲『闇をひとつまみ』は耳を凝らしていると、「会いたい友人がいるんだ」といった詞が聴こえたけど気のせいだろうか?真顔な髭を垣間見るような。続く『三日月』の憂いを、音を立てて破り去ったのは『白痴』。2003年にインディーズで発売した2ndアルバムに収録されている曲で、自分もナマで聴いたのはこの日が初めて。斉藤祐樹(Guitar)のMCをやんわりさえぎるように須藤が「『白痴』やろうよ、『白痴』!」と言った時、「え?え?白痴?」と狂喜する声が聞こえた。そういえば神戸で『連中は遠慮しな』(2005年発表)をやった時も「連中?連中!」と歓喜する声を聞いた。曲が古くなっていない、というのも事実。それよりも、発表当時より10年、もしくはそれ以上の年月を重ねていながら、曲も髭も一向に丸くなることなく、それどころか平然と尖り続けているように感じられるのは気のせいだろうか。何が飛び出すか分からない予測不可能なところが危うくもあり、髭というバンドの中毒作用を引き起こすポイントでもあり。

この日のアンコールではゴメスと須藤の2人で『家』『君のあふれる音』を、照明も神々しく感じられるぐらい本当に本当にしっとりと披露。そこにいる全員が、一人残らず音も立てずに聴き入っていた。後でステージに現れた斉藤の「今の2曲はコンチェルト(=concert)みたいだった」は言い得て妙。最後は『ハリキリ坊や』でフフッフー!と大騒ぎし、『テキーラ!』を頭から浴びて今回の“with”はジ・エンド。
2013年の今ごろ、髭はアルバム『QUEENS,DANKE SCHoN PAPA!』を携えた大規模な全国ツアーを行っていた。その後、サポートメンバーだったアイゴンこと會田茂一(Guitar)がバンドを離れ、今年2月にはオリジナルメンバーのフィリポこと川崎裕利(Drum&per)が脱退。そして、ゴメスが新たに加わり、その間も対バンやワンマンを含め4月いっぱいまでに全国各地で約20本ものライブを彼らは行ってきている。節目の祝杯を上げるヒマもない勢いでバンドは転がり続け、ライブのたびに少しずつ変化を遂げている。

神戸でアンコールの最後の曲『虹』を聴いている時のこと。髭ナンバーの中でも特に人気の高いピースフルな『虹』は、聴いている誰もが顔をほころばせ、歌っている須藤も限りない笑顔をフロアを向けている。その須藤の背後で、宮川トモユキがネックが折れ曲がらんばかりの勢いでベースを弾く姿が目に留まり、そこから目が離せなかった。鬼気迫る、とは大仰かもしれないけれど、明るく晴れ晴れとした幸せな曲のムードの対岸にあるような宮川の表情や動きに、カラリとした髭音楽の中にある幸せなだけじゃない何か、楽しいだけじゃない何かを見る思いがした。

髭ってこんなバンドだった?と思うことが時々ある。10年間のうちの最初の半分ぐらいの頃は、もっと刹那的な、瞬間的な快楽をくれるバンドであり、音楽であったように思う。今でももちろんそういう側面はあるけれど、それとともに、気が付けばいくつもの時間や年月を共有し、いつしか一緒に歩いているような距離感や温度を感じてもいる。

秋にはワンマンの全国ツアーが予定されており、それ以外にも今年は例年以上にライブの機会が多くなるという。次にステージの幕が上がった時には、今までにない髭に出会うのかもしれないし、案外フツーにいつも通りだったりして(笑)。11年目の髭も、まだまだ陽気なパーティーは続いていく。

(文:梶原有紀子/撮影:田浦ボン)

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・髭 The First Half of “DECADE”
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SET LIST:
きのこ帝国
4/28
01. 退屈しのぎ
02. ユーリカ
03. 国道スロープ
04. WHIRLPOOL
05. パラノイドパレード
06. ミュージシャン
07. 夜が明けたら
08. 海と花束
09. 明日にはすべてが終わるとして

4/29
01. 退屈しのぎ
02. ユーリカ
03. 夜鷹
04. 海と花束
05. パラノイドパレード
06. 風化する教室
07. ミュージシャン
08. 夜が明けたら 
09. 明日にはすべてが終わるとして


SET LIST:
髭
4/28
01. ネアンデルタール Punks Fuck Off!
02. I’m so sick
03. 2人はブルージーンズ
04. ボーナス・トラック
05. せってん
06. 連中は遠慮しな
07. MR.アメリカ
08. Virago ※新曲
09. Economic Alien
10. テキーラ!テキーラ!
11. ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
12. ダーティーな世界 (Put your head)

EN:
01. 君のあふれる音
02. それではみなさん良い旅を!
03. 虹

4/29
01. サンシャイン
02. ブラッディ・マリー、気をつけろ!
03. なんとなくベストフレンド
04. ギルティーは罪な奴
05. 僕についておいで
06. イカしてる俺は×××
07. それではみなさん良い旅を!
08. 闇をひとつまみ ※新曲
09. 三日月
10. 白痴
11. ロックンロールと五人の囚人
12. 虹

EN:
01. 家
02. 君のあふれる音
03. ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
04. テキーラ!テキーラ!