毎年恒例、アナログフィッシュ冬の磔磔ワンマン。 2008年2月に初回をおこない、今年で7回目となる。初回は斉藤州一郎(Dr. & Vo.)が病気で欠席、佐々木健太郎(Vo. & B.)、下岡晃(Vo. & G.)の2人での変則的な編成でライブをおこなった。 翌年はサポートのドラムとキーボードとともに4人で、そして2010年には斉藤が復帰し、再び鉄壁のスリーピースとなって磔磔に帰ってきた。2012年には客席のコーラスをレコーディングする試みをおこなうなど、このワンマンは常に「最新型のアナログフィッシュ」を見せる場となっている。加えて、リリースとは関係ないワンマンということでセットリストの自由度が高く、毎年新曲だけでなく意外な旧曲を演奏することも多く、これも楽しみである。昨年からは「KYOTO TO TOKYO」と銘打ち、京都磔磔に加え新代田FEVERでの2daysとなっている。
客電が消え、無音の中、登場した3人。ドラムセットを中心に3人が顔を突き合わせての「会議」のあと、ドラムのカウントから鳴らされたのは『Hello』! 大きな歓声が上がる。続いて下岡の新曲、『There She Goes(la la la)』。裏打ちのハイハットが気持ちいい。「la la la」とコーラスがループし、高揚感が増していく。そしてそんな気持ちの良い高まりを突き破る、緊張感に満ちたイントロから『平行』。間奏では暴力的なギターが重い空気を切り裂いていく。
ここまでは3曲続いて下岡ボーカル曲だったが、ここから3曲続いて佐々木ボーカル曲のパートへ。3人のセッションが始まり、佐々木がMC。「How are you? 気分はどうだい? 京都!」 いつもより長いイントロから『LOW』。3人がギリギリのところで己のすべてをぶつけ合うような、全力で壊れようとしながら全力でアンサンブルを成立させるような、そんな歪な美しさに圧倒される。次は一転して開けたイントロから『ハッピーエンド』。ドラマチックに上昇していく多幸感が素晴らしい。斉藤のドラムは確かなリズムを刻み、歌というストーリーを前へ進めていく。シンプルなパターンを叩いていてもそんなことを感じさせてくれる、魅力溢れるドラミングだ。そして続いて『世界のエンドロール』。勢いだけで走り出し、何もかもを振り切って、振り返らず前だけを見るような演奏。これらたった3曲から、佐々木が作る曲の振り幅の広さに感服してしまう。
中盤に入り、落ち着いた空気へと移行。下岡の新曲『彼女はMutant』は、軽快でシンプルなメロディラインが印象的で、初聴ですぐにサビを覚えてしまった。続いて「夜の色、月の花」という佐々木の大声量アカペラの歌い出しから、『月の花』、そして『Goodbye Girlfriend』へ。深まる夜のモード。続いて『風の中さ』。マーチング風のドラムに乗って淡々と始まり、徐々に強く大きく、彼ら3人が描く世界が広がっていく。
そして終盤へ。まず『戦争がおきた』。戦争の凄惨な情景と血の通った日常生活がリンクする歌詞。 続いて、聴いたことのないイントロが鳴らされ、下岡が歌いだしてようやく『公平なWorld』だと気づく。ライブでやるのはいつ以来なのだろう? 思い切ったリアレンジがされていて、まるで初めて聴く曲のようだった。サビではドラムだけが静かにリズムを刻む中、3声の厚いコーラスを最大限に聴かせるアレンジになっていて、大胆に音数を減らしているのにコーラスはどんどん熱を孕んでいく。そんな熱気に乗って「ルールを守り続けなくちゃ!」と叫び続ける下岡は鬼気迫り、照明を受けて白い炎を背負っているかのようだった。次は、佐々木が「ここから盛り上がっていくぜ! よろしく頼むぜ!」と煽って『ダンスホール』。いつもよりもアップテンポで、その速すぎる演奏に負けじと客席もテンション高く踊る。その後間髪いれず、佐々木が「ありったけの願いをー!」と全力のアカペラで歌い上げて、『Fine』。そして続く『STAR』では「踏み出した荒野の先に行こう!」という佐々木の一言で、鬱屈なことばかりのこの時代に自らの歌を意味あるものとして響かせようとする、彼らの決意表明に聞こえた。最終盤、『抱きしめて』と『はなさない』の静寂と轟音、風刺と日常、不安と信念、理解と諦念、そしてアンサンブルの確かさとぶれないスタンスによって、たった3人で宇宙の広さを描こうとしているような、そんな彼らの強い意志が見えた。
知らない間に閉塞感に締め付けられる私たち。無関心のすぐ傍で変わっていく社会。目に見えないものを感じとれなくなっている不感症の人々。はっと気づいたら既に身動きがとれなくなってしまっているのではないかと、日々ニュースを見ながら筆者は危惧している。
そして、そういうものを可視化するような彼らの歌こそ、この時代に響くべきなのだ。そう確信している。
本編最後の『はなさない』が放った熱が消えないうちに、大きな拍手に迎えられてアンコールへ。下岡が「レアな曲を」と言って始まったのは『海へ出た』! 2006年に発売されたシングル『Magic』のカップリングだったこの曲は、近年ライブで演奏されることはほとんどなかった。初聴のファンも多かったのではないかと思う。独白のように淡々と始まり、サビではシンプルながら厚いコーラスが展開される。アナログフィッシュの魅力が存分に味わえる名曲だ。続いては定番『アンセム』。いつ聴いてもこの曲の、「万人に開かれた感じ」「万人を受け止めてくれる感じ」に救われる。ダブルアンコールは『Phase』。佐々木と斉藤ががっちり固めたリズムの上で下岡がアジテートし、それにハンドクラップで応える客席。手ごたえのある一体感と充実感に満たされて、ライブは終了した。
彼らの音楽に対する真摯な姿勢、社会に向けてのメッセージ、『公平なWorld』で見せたリアレンジ能力など、多様な魅力と個性が1本のライブの中に詰め込まれていて、それぞれが強い印象を聴く者の心に残していった。そして曲についても、 『海へ出た』など初期の曲から『はなさない』など最新の曲まで、様々な手触りがありながらも違和感を感じない、一貫したセットリストに組みあがっていた。
佐々木、下岡のソロ活動や下岡・斉藤が参加するバンド「elephant」の活動も楽しみであるが、一番期待したいのは、やはり彼ら3人にしかできない唯一無二のバンド活動だ。今年で活動15周年になるアナログフィッシュ。今、本当にいい状態だと思う。今年も目が離せない。
(文:山岡圭)