■2013.09.15 名古屋・金山ブラジルコーヒー
NRQ “秋の東海ツアー”
REPORT[2013.10.12]
12の弦(エレキギター、コントラバス、二胡)と管楽器とドラムから成るインストゥルメンタル・バンド、NRQ。今までに『オールド・ゴースト・タウン』『のーまんずらんど』のアルバム2枚と『のーまんずらんど』リミックス盤である『The Indestructible Beat of NRQ』をリリースしている。今年は特に精力的なライブ活動を行っているが、意外にも東京でのワンマンライブは行われない。去年から引き続き、今年も名古屋金山のブラジルコーヒーでワンマンライブが行われるとのことで、台風の中名古屋に出かけた。

会場であるブラジルコーヒーはその名の表す通り、喫茶店である。古き良き喫茶店で、ふらっと入っても、まさかここで度々ライブが行われているとは、店内にあるピアノを見ても、にわかには信じられないかもしれない。会場に集まった人達は、思い思いにドリンクや定食やナポリタンなどを注文し、ライブが始まるのを待つ。

ほどなくして、店の一角で四人がセッティングしてライブが始まった。牧野が愛知出身のコントラバスの服部を紹介するMCから始まる。曲は服部作曲の『春江』さらっと軽目に演奏が始まり、静かに引き込まれていく。
続き、コントラバスソロから『街の名』演奏に厨房の生活音が混ざる。不思議とそれも演奏のパートのひとつのようだ。次第にギターが追いかけてくる。
牧野のいつもより好調を思わせるギターソロから『知った口』中尾はクラリネット、吉田の二胡とのユニゾンでメロディを奏でる。ソロ回しではクラリネット~エフェクト深くかけた二胡~ギター~コントラバスと繋ぐ。テーマ!と牧野が合図して本編に戻る。牧歌的な響きながら、切れ味ある運びだ。
『東十六字星』タイトなドラム、死にフレーズなし、キメしかないアンサンブル。牧野のテンションの具合は如実にその日のライブの印象をガラリと変えるが、この日は冒頭の時点で素晴らしいライブになる確信があった。
コントラバスとギターの掛け合いから『魚の午前』ゆったりと、それぞれが楽器で会話するようだ。中盤のアドリブパート?から曲に戻るタイミングの妙。
『夜と霧』メリとハリとわびとさび、ひとことひとことがはっきり聞こえるかのようなリズム隊にエロティシズムさえ感じる二胡の音とフレーズ、ギターは音そのものが指板を駆け回るようだ。いつ聴いても同じことはない演奏は、毎回その曲の魅力を更新していく。
ユーモアソングを、と牧野がいい、『台湾のおじさん』へ。イキイキした中尾のサックスが歌う。メンバーそれぞれのある種のキャラクターが演奏に出て、インストゥルメンタルといえど、能弁にストーリーを盛り込んでくるようだ。吉田の二胡の音色も、ライブハウスで聴くのに全く聴き劣りのしない色の豊かさだ。
『ピロシキ』メインテーマに入るまでのイントロでこちらのテンションは一番上まで上がりきっている。吉田のカウントから、嵐を呼ぶというより嵐そのものな四人の演奏にはキレしかない。そういうものに触れると、唸りながらも笑うしかなくなるから不思議だ。
『パシナ式』それがどんなに緻密に組み上げられたものでも、難しさや複雑さを感じさせないのが、魅力ある曲や演奏の威力だな、と感じる。
第一部最後の曲は『12月の蛙』途中のノイズパートが、気持ちを静謐さで満たしていく。メロディだけでなく、こういうパートにも静かに高揚させられる。二胡によるノイズは曲に戻っても鳴り続け、空間を押し広げていく。
一旦休憩に入ると、客はここぞとオーダーを入れ、厨房は大忙し。休憩中はDJ ozakiが会場を盛り上げ、第二部へ繋いだ。

『身それた花』からスタート。哀切漂うクラリネットに、静かに渦を巻くような二胡、淡々と支えるコントラバス、ドラマチックに語るギターが紡ぐ世界に息を呑む。
『門番』イントロのコントラバスから、圧迫感すら感じるような凄み、曲が進む毎に息を付かせないようなドラマが畳み掛けてくる。声も出せずに音の中に浸かる。
後半はタフな曲が続く。『イノメ』もやはり、じりじりとした静かな迫力がせまってくる。ブレイクや曲の最後では息が出来ない。
『イノメ』から鉄板の繋ぎで『ボストーク』。一時期は定番だったが、最近はそんなにこの二曲を繋いでいるライブが多くなかった。それだけに、来た!感はひとしおだ。丁寧さがありつつも、次々繰り出されるパンチの様な演奏に煽られて、カメラを放り出して踊り出したくなる。
曲終わりの歓声にかぶさるように『また変な知らせ』この繋ぎも久しぶり、新鮮さすら感じてニヤリとしてしまう。とっておきの隠し球をくらったような驚き。ただ勢いや力で持っていかれるよりも、しなやかさと濃密さは、こちらをひとひねりで倒してしまうようだ。
続いては『かの日の戯れ』夏や南国の陽気さを感じさせる、今までのNRQではあまりなかったように思う最近の新曲だ。底抜けの楽しさ、翻弄されるような展開、台風を完全に忘れる青空感。コントラバスソロもひときわ楽しく笑顔になる。南国情緒に二胡が不思議とマッチするところがNRQの真骨頂と言える、ような気がする。
『エンヴィ』懐かしさを感じる泣きのサックスを筆頭に、言葉よりも豊かに歌う演奏。
ここ最近のライブで演奏されているLonesome Stringsのカバー『candela』この曲の時の牧野の演奏は特別に気持ちが込められているように感じる。当たり前なのだが、自分の曲とはまた違う大切な感じ。曲の素晴らしさと、演奏の愛。
場面を変えるように『マンザナー』軽快さが、どこかこのワンマンの終わりが近づいたのを知らせるようで少し寂しさを感じる。曲終わりで牧野が次で最後の曲、と告げると会場からは、ええー?と声があがる。
『すい』さらりとした明るさで清々しさすら感じる最後の曲、色んなフレーズが一言ずつ挨拶して消えていくエンディングを頭に思い浮かべた。
これで終わるわけもなく、拍手の中そのままアンコールへ。
牧野が去年に続き今年もワンマンが出来た事に感謝を述べると、店主で主催である角田から来年もあるよ!と嬉しい言葉。
『コンサルタント・マーチ』楽しさとワンマンの終わりの寂しさをひしひしと感じつつも、まだ名残惜しく拍手は鳴り止まない。
角田が最後に改めて来年のNRQのワンマンを確約し、再度NRQを呼び込み、Wアンコールで『うぐいす』。いつものしっとりさに加えて、どこかエモーショナルな響きがあり、胸がいっぱいになり、大団円でライブ終了となった。
…と思ったが、粘る拍手に、なんとトリプルアンコール!しばし何の曲をやるか相談した後、『送る日』を演奏。重くないけど濃厚なテンションの密度、ゆるくなく、きつくなく、満ちたものが途切れないこの日のワンマンを振り返りながら、耳を傾けた。

この日のワンマンが素晴らしかったのには、ブラジルコーヒーという場の力も多大に影響しているだろう。あの場とそこに集まった人たち、磁場や引力のようなものを感じずにはいられない。
閉じられた密室でなく、人ので入りする場、カフェではなく、喫茶店ならではの、音と人が行き交うイメージの中、音が大きく広がっていった。音も良く、意外にも店内のどこで聴いても気持ちよく聴けるのが驚きだった。
勿論、NRQというバンドの魅力も大きい。四人の思いのほかキャッチーなキャラクターと、それぞれに凄腕であるオールスター感。演奏のどこを切り取っても、格好が良いのも素晴らしく、うたものを聴くのと同じかそれ以上に浸透力のあるメロディの強さ。NRQの楽曲の浸透力は、ある意味、真のポップソングと言えるのかもしれない。
今のNRQはライブ毎に頂点を毎回更新している。是非とも機会を作って、今の彼らの音を体感、目撃して欲しい。(文/撮影:タカクワユキコ)

ライブ情報などはこちら
http://nrqmakino.exblog.jp/


SET LIST:
01. 春江
02. 街の名
03. 知った口
04. 東十六字星
05. 魚の午前
06. 夜と霧
07. 台湾のおじさん
08. ピロシキ
09. パシナ式
10. 12月の蛙

11. 身それた花
12. 門番
13. イノメ
14. ボストーク
15. また変な知らせ
16. かの日の戯れ
17. エンヴィ
18. candela(Lonesome Stringsカバー)
19. マンザナー
20. すい

EN1:
01. コンサルタント・マーチ
EN2:
01. うぐいす(岩田江カバー)
EN3:
01. 送る日