■2013.06.08 渋谷CLUB QUATTRO
アナログフィッシュ “New and Clear Tour”
REPORT[2013.07.27]
アルバム『NEWCLEAR』リリースツアー“New and Clear Tour”。昨年からの活発なライブ活動と、『NEWCLEAR』の評判とが相まって、今までになく盛り上がりを見せていたアナログフィッシュ。ツアーファイナルは慣れ親しんだ渋谷CLUB QUATTRO、派手なプロモーションなど無しでの初めてのソールドアウト。
OPSEはなし、ふらりと出てきて、自分らで音合わせをし、ドラムに三人が集まり、会議。いつもと同じ光景だが、歓声の大きさが違う。不穏なイントロが流れ出した途端に自発的な手拍子が起こる。「踊りたいなら踊ってって!」と下岡が告げて『SUPER STRUCTURE』どこか静かな俯瞰目線でいながらも、挑発的な言葉たちと、淡々と反復し続けるリズム隊。緊張感と高揚感、曲の最中でもたまらずあがる歓声!
曲が終わるとすかさずドラムが繋ぐ「ドラムス斉藤州一郎!」と紹介が入り、『My Way』へ。BPMは同じくらいだろうか、曲調はまるで違うのに、まるで地続きのよう。淡々と綴られる情景、ストーリー。
リズムは止まらない。「今日みたいに、皆に会えたこんな奇跡の時間を歌った曲です。」と佐々木が言い、『奇跡のような日』大きな声で、素直な言葉がメロディに乗る。クリーンなギター、シンプルなベース、スキマに光を孕んで眩しい。思いの外、前半に組み込まれた『Hybrid』。スイッチが入ったように髪を振り乱す佐々木と、後半熱く声を荒げつつ、内に向かっていく下岡。
拍手が止むとえげつない音色のベースがうなり、「ボーカルベース、佐々木健太郎!」と紹介。コードに聞き覚えがあるが、まさか?と思っていると、やっぱり『曖昧なハートビート』。まさかこのツアーのセットに組み込まれてくるとは。コードを弾かないギター、ベースとドラムで曲が成立する。音源では、生のドラムを切り刻んで再構成し、まるで打ち込みのリズムのように聴こえる『曖昧なハートビート』だが、この日の演奏では、正確無比でありながら、打ち込みとも生ともつかない独特なグルーヴが生まれていたように思う。
間髪入れずに『GOLD RUSH』、イントロのカッティングで既に手拍子させろ!とばかりに手が鳴り出し、会場が自然と横に揺れだす。今日のライブはいつにも増して、一曲目から会場の「待ってました!」感が強い。拍手、歓声、手拍子などで、それぞれが思い思いにその期待の強さを表している。曲途中のブレイク、煽る下岡に、早く早くと客がブレイク前から声をあげ、「朽ちてただ土にかえるだけ!!」と皆で叫んだ時のカタルシス!曲が終わった後もしばらく歓声が止まなかった。
「今日のこの日を、会えるのを楽しみにしてました。」いつもと違い、まるで別人のようにクールな佐々木のMCから『Good bye Girlfriend』アーバン感あふれるイントロのコードですぐに世界は変わる。惜しみなく前半にシングル級の曲を畳み掛けてくる印象だ。
曲終わりの拍手の中、ラフにギター弾き語りで下岡が『抱きしめて』を歌いだす。バンドが加わり、さらりと曲が進んでいく。つとめて重過ぎないようにしているのかな、という印象をうけた。しかし、一旦曲が終わったと思わせてから始まった長いアウトロの轟音ギター。最近は意図的にあまりギターを弾かない印象のあった下岡の、ノイジーなギターソロは、この日のハイライトといってもよいのではないだろうか。かきむしるように鳴らすギター、テンションの向かい先は内へ内へ向かい、内部で爆発をするような。バンドのごく初期から、大事な局面で演奏されてきた『出かけた』を演奏する時に感じる押しつぶされるような緊張感にも似て、息をのみ音を浴びた。曲終わりの長い拍手のあとの静寂が、演奏の凄まじさを物語っていた。
ぽつぽつと独り言のように佐々木が「このアルバムは俺たちにとっての希望、君たちにとってもそうであればいい」と語り、『希望』。朗朗と歌い上げる佐々木、まるで静かに歌うような斉藤のドラム、何かの始まりを告げるチャイムのような下岡の操るサンプラーのフレーズ。
ここでやっとまとまったMCタイム。「前回のツアーの時より、どの会場もチケットが売れて、渋谷は初めてツアーでソールドアウトした。本当にありがとう。」と佐々木。「ほんとにびっくりしちゃった。」と下岡。「クアトロは何度も出ているんだけど、リハの時から新鮮な気持ちだった。ライブも、初めから皆熱いから。」確かに、観ている側としても、会場の期待感がはみ出ているようなテンションや、音のバランスの良さ(おそらくスタッフなど変わっていないはずなのに)を個人的に感じたのもあり、新鮮に感じる場面は多々あった。
「色んな街に行ってきたけど、東京は特別な街。君の住んでいる街を思い出して聴いて。」と下岡がいい、『City of Symphony』ボーカル、アナログフィッシュパートの大部分は佐々木、やけのはらパートは下岡が担当する。やけのはらの独特なリズム感を乗りこなした上で、下岡の独自のリズムが生まれてきた感がある。佐々木の優しく力強く歌い上げるパートとの相性も当然ながら素晴らしく、静かに斉藤が歌う高音のコーラスパートも美しい。
シェイカーから始まるイントロ、「サーモスタットいかれてんなー」のコールアンドレスポンスがどんどん大きくなり『Watch Out』のギターリフが始まると、歓声というより悲鳴のような声があがる。期待度の高さ故だろう。うってかわって攻撃的、たたきつけるような下岡のラップ、「Watch Out!」にディレイがかかって響き渡る。
このあたりから後半怒涛のたたみかけ。容赦なく『PHASE』何度も何度も観ていても、その度にはっとさせられる言葉たち。『STAR』最近あまりなかったスピード感のあるストレートな曲調に、妙にくすぐったくなりながらも、両拳を挙げたくなるような高揚感。ここで『Fine』全力の覚悟で高らかに響く歌声に、さらにさらに高く舞い上がるようだ。多幸感という言葉は個人的にはもうあまり使いたくないのだが、この時は幸せな空気そのものしかなかった。本編最後は『I say』彼ららしいスキマのあるアレンジ、その中をシンプルで強いメッセージ「愛されたいより愛せ」真っ直ぐにこちらに向かってくる。呟くようなパートから、徐々にボルテージが上がり、強く歌い上げるパートへの流れが美しすぎて息を呑んだ。
アンコール、「お言葉に甘えて何曲か」と言って、『僕ったら』静かなイントロから、力強いギターのストローク、ベースのスライド。演奏やバンドの成長によるところもあるだろうが、これがアナログフィッシュの超初期からある曲だとは思えないくらいの強度と説得力を改めて感じる。「今年はまだナツフィッシュのお知らせをしてなかったけど、やります。」と下岡が告知すると、ざわざわと会場が沸いた。下「言い残した事は?」佐「本当に来てくれてありがとう!」下「本当にそれに尽きる。皆最高だよ。そんな皆さんに捧げます」と言って、『TEXAS』いつにも増して光がきらきらと降り注ぐような、強い意志を感じる。曲終わりの大団円ムード、あがり続ける歓声に、おそらくWアンコール用だったのだろうか、ステージから去らずに三人が軽く相談して、『荒野』のシーケンスが鳴り出す。『荒野/On the Wild Side』に収録され、『NEWCLEAR』が世に出てから、この曲も、その他の曲も、意味や世界に更なる拡がりを獲得していくようだ。思い思いに声をあげ、手を挙げ、じっと見つめ、静かにゆれている会場の一部であることを感じていると、底抜けに楽しい気持ちと、急に走馬灯のように思い出がめぐったりもした。ツアーでない時(例えばナツフィッシュ)のライブでの意外なセットリストで驚くことはよくあったが、ツアーのセットリストでここまで唸ることは初めてではないだろうか。曲順だけでなく、曲の繋ぎ方、ライブ運び、緩急のつけ方、全てが素晴らしかったのだ。
個人的には、アナログフィッシュのライブを観始めて10年ほどになる。この時代が良いとか悪いとかではなく、その都度、その時が良いと思い続けてきた(思い続けることができた)が、この日はライブは10年間で、一番だった。実際に、客観的に比較できたとして、本当に良かったのか悪かったのかは恐らく誰にも断言はできないだろうが、ただ、「今日が一番良かった!」と声をあげたい、そういう気分にさせられる夜だった。(文・タカクワユキコ/撮影・山川哲也)
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