the coopeez『appealtime』インタビュー
INTERVIEW[2017.10.27]
●今作を聴いてまず驚いたのは、これまでクーピーズのアルバムは全て1曲目に導入の短い曲があって2曲目から始まるような構成でしたが、今回は1曲目から本編に入って、しかもイントロなしで始まるっていう。
藤本:僕だけで考えてたら、また何か作ろうとしてたんですよね。でも、いらないんじゃない?って聡くんが結構言ったっすね。
山本:アルバム全体で今までと違う、僕らが進んでるんですよっていうところを見せたいのもあって、それもテーマにあったんですよ。その大きなテーマがジャケットとかのグラフィックにも表れてますし、その一環でど頭にあったジングルみたいのをなくすっていうのも出てきました。
●1曲目の『無力な瞬間』はとても印象的な歌詞ですが、これはノンフィクションなんですよね?
藤本:はい、まんまって感じですね。去年の夏、実家に帰って墓参りに行った時に、おばあちゃんのお見舞いに行って出来た曲ですね。祖母に言われた言葉がよっぽどインパクトがあって、それをそのまま使おうって。本当に無力な瞬間だったんですよね。
●この曲が1曲目にあることによって、アルバムの印象が決まるというか、こういうことをやりたいという明確なものを感じました。アルバム全体のサウンドのことで言うと、前作『rucksack』の時に、それまでのギター、ベース、ドラムっていうストレートなバンドサウンドから少し踏み込んだところに来ていたと思うのですが、今回更に深く追い込んで作っていらっしゃるなという印象を受けました。
山本:音楽的な興味がそっちにあるっていうのが一つと、明確なコンセプトがあったので、それをどう伝えようっていうのを、僕と宏実くんと二人で考えてて。『浅瀬で溺れている』みたいに元々のアレンジがどハマりしてる曲もあったし、もっといい伝え方があるだろうって二人の感覚で思うものもあったので、それを重点的に変えていったんですけど、そうなった時にバンドサウンドに限らない方がいいだろうし、曲によってはライブで出来ないからやめようとかっていう判断もしょうもないなっていうところで合致してて、それが起点ですね。必要な音をどんどん足していく、足しすぎて引くをずっと繰り返していたので、あんまりこれはやっちゃいけないっていうのを作らずにやりましたね。
●まさにそういう、曲の良さを伝えるためなら何でもやる、手段を選ばないという感じはしました。
山本:僕、ユニコーン好きなんですけど、あの人達も曲にとって良ければなんでもアリ、曲のために何ができるかをずっとやってた人達で、そういうやり方が好きだし、他にもそういうやり方をしている人達は好きなんですよね。それがやりたかったし、出来たと思います。
●藤本さんはそこに関しては、もう曲を差し出してどうぞ好きにやってくださいって感じですか?
藤本:僕はどっちかって言うと、ほっといたらあんまり変えたくないタイプなんですよね。同じことを一貫してやったりするものが好きだったりするから。聡くんは前がどうやったからとか、どっちでもいいんじゃない?っていうタイプなんです。だからアレンジとかも変わってきた時に、一瞬全然ちゃうやん!とかもあるんですよ。
全員:(笑)
藤本:でも、昔やったら自分のデモのイメージばかりを追い求めてたけど、そういうことを根本的に一旦やめようって、それこそ『rucksack』あたりから、そういうスタンスでいないと、この4人でやっとる意味ねぇよなって思うようになったんで。自分のは自分で作るけど、それが答えやっていう感じで提示しても3人が面白くないし、僕的には3人が面白くないっていうのは一番やりたくないことなので、その辺のバランスっていうか。テーマをどうこうって僕が提案した時に、二人がデモを超えるアレンジをしたいみたいな話をしてて、それも裏テーマじゃないですけどあったと思いますね。
山本:アレンジが悪いとかは思わないんです。でも、ここの3人が、彼の曲を聴く最初のお客さんじゃないですか。だからこの曲を、後ろにいるお客さんに伝えるために、何かもっとよく調理して渡せるはずだって思うんですよ。前のアルバムの『リュックサック』って曲の時をよく覚えてるんですけど、熱量が入りすぎてるなと思ったんですよ。歌詞とアレンジ両方に熱量が入りすぎてるから、受け取った側はちょっとトゥーマッチになるんじゃないかなって思って、どっちかを冷ました方がいいんじゃないかなって。それをやる余地がある曲に関しては、ガンガン入っていこうと思ってて。分かりやすいのが良いとは思わないですけど、伝わりやすかったり、効果的に伝わる方法を思いついたりしたら、宏実君に相談したり。ここ(藤本さん)には言わないんですけど(笑)。
●じゃあ、藤本さんに相談はなく、お二人が話して新たにアレンジされたものが届けられると。
藤本:そうですね。逆に言ったら、今回はあんまり関与してないというか。アレンジに関しては、僕以外のメンバーの発想、二人のイメージによる進化じゃないかなと思いますね。
山本:もちろん持っていって感想もらったりとか、少し足したりとかはありますけどね。
●『rucksack』以降は、ライブでも山本さんがベースの間にシンセを弾いたり、夏音ちゃんがサンプリングパット叩いたりとかしていたので、自然な流れかなとも思いつつ、遠慮なくやった感じが今回はしていて。
山本:そうですね。遠慮なくやりすぎて、ライブで手が足りなくなった。
●(笑)。それで今ライブでは鍵盤の方にサポートしてもらってるんですよね。
山本:そうですね、健全な流れかなとは思いました。
●アレンジの幅を広くしていくことは、自分達がこれまでにはやってなかったこととか、出来ることを増やしていく作業でもあると思うのですが、その辺りはレコーディング、ライブも含め、どうだったんでしょうか?
山本:技術的なことは自分達の守備範囲以外は対応できないので、結局シンプルなアイデアのレイヤーになってるようなことが多いんです。だから面白いアイデアを思いつくために、調べたり研究したりすることの方が大事だなって思ってやってました。あとは出来ないことは他人に任せる(笑)。こういう雰囲気が欲しいとか、こういうのやれる?とか。
●それを言われて、小川さんは?
小川:僕はやりますよ(笑)。イメージ聞いて、自分のイメージにある音資料を探して、それを参考にしつつ落とし込んでいく感じですね。
山本:二人でそんな会話ばっかしてる時もあって。もっとラインのショボい音で、とか。振ってやってもらう、やりすぎず相手にやらすっていうか。
小川:(笑)。あぁ、そうだね。それの繰り返しだったかな、今回は。
●ギターの音一つ入れるにしても、曲のベースにあるものがこれまでとは違うので、別の角度から考えるというか、思考を切り替えないとならないんじゃないかなと。
小川:変えましたね。自分の固定概念に縛られないようにしようとはしました。『S&M』とかは、実際レコーディングではアンプでは録ってなくて、ラインで録ってるんですよ。そういう音がいいなって話で。
山本:うちで撮ったんだったっけ?
小川:そうそう。家で宅録で録ったものをそのまま使ってる。
山本:『S&M』は、リズムとか音を抜いたような空気とか、大まかなところは宏実くんがアイデア持ってきて、そこに積んでいったんですけど。
小川:今回は歌詞に焦点を当てようって話だったんで、それに合うように作ろうと思って、一回全部バラしたんです。
山本:『S&M』はデモがフィジカルな感じが強かったんですよ。だから、もうちょい冷ました方がいいかなって。
●中盤の『スーパーフューチャー』『S&M』の流れっていうのが、アルバムの中でも一番おっと思ったところでした。クーピーズでこういう音色の曲もやるのかというか。
山本:素晴らしい着眼点ですね。実は『スーパーフューチャー』は藤本くんのデモのまんまです。だから、作り方も録音も全然違う2曲を出してもらったのが面白いなと思って。これカセットで撮ったんですよ。キセルが昔ライブで使ってたTASCAMの4チャンネル録れるMTRっていうのがあるんですけど、昔藤本くんがそれでデモテープ作ってて、それを持ってるって話をスタジオでしたら、エンジニアのstudio SIMPOの小泉さんがテンション上がってくださったんで、やりましょうって。
●力の抜けた感じというか、不思議な柔らかさが出てますよね。今回、アレンジの変化もあって、藤本さんの歌の色々な表情が引き出せてるなと思いました。
山本:それはめちゃくちゃ嬉しいですね。そのためにやってる。
藤本:(笑)
小川:でも、そうだよね。そのためだよね。
藤本:僕の気づかんところで、みんなやってくれてて、ありがとうございますって感じですね(笑)。
●歌う側としてはどうでしたか?
藤本:それなりに頑張りました。
全員:(笑)
藤本:歌のタッチというか、一応その辺は若干意識はしましたね。このアレンジだからどうこうっていうのではないですけど、単純に曲として、単調にならないようにというか、イメージは持ってやろうと。