ラッキーオールドサン『Belle Epoque』(ベル・エポック)インタビュー
INTERVIEW[2017.05.30]
人が「青春」と呼んでくれる事には嬉しいと思うんですけど、
自分たちは今を、これからを、逃げないで、今出来る精一杯を作りたい
そういう覚悟を示してるつもりです。

ポップスファン待望の2ndフルアルバム『Belle Epoque』は「良き時代」をコンセプトにした、時間や場所・曲と曲を往き来する、まるで旅をするような1枚。全曲紹介付きインタビューです。
●前の取材から一年ぶりになりますね。よろしくお願いします。
篠原:よろしくお願いします。あ、一年ぶり?
ナナ:一年…あっと言う間でしたね。
篠原:(笑)
●前作はルーツ物を意識した『Caballero』(キャバレロ)でしたが、今回の『Belle Epoque』(ベル・エポック)はどんな流れだったんですか?
篠原:今回のアルバムの構造と言うか、「こういう物を作ってみたい」っていう意識は実はファーストフルアルバム『ラッキーオールドサン』を作ってたタイミングくらいにはイメージがあって。だから2年前くらいから考えていた事ではあったんです。でも、構想はあったけど、それを形にするまでに時間がかかったんです。1stを出して、そこからここに至るまで紆余曲折があって、それを一回整理する上で『Caballero』が必要で。それは今作らなくてもいいような物を(笑)、歳を経てから作っても良いんじゃないかっていうのをやろうとして。それはある意味カウンターみたいなところがあったんですけど。1st出して…色々分かんなくなって。
●立ち位置が分からなくなったような?
篠原:なんか…。
ナナ:『Caballero』は、凄い、枯れた事がやりたいなと思っていて、でもそれを出してから…確かに今は今とちゃんと向き合うことをやりたいって言って。次はフルアルバムを作りたいなってずっと話してたんで。『Caballero』を経ての流れは必要だったと思うんですけど、それをリリースした後、私はちょうど大学を卒業したので、環境も変わって、どうやっていこうとか、分からなくなってしまった時期だったので。個人的にも。
●そうだったんですね。今回、最初に思っていたセカンドの形とは変わりましたか?
篠原:うーん。こういうのをやりたいって言うのは一貫してあったんですね。でも『Caballero』を出して、更に自分たちが分からなくなった後に、このアルバムに着手する直前くらいに、ようやく出来る気がしたっていう。変な喩えなんですけど、『ゼルダの伝説』の「時のオカリナ」と「ムジュラの仮面」って言うのがあるんですけど、そういう並行世界に迷い込んだようなところで『Caballero』があって。
ナナ:みんな分かるのかな?私分かんないけど。
●(笑)。ゼルダ分かる人じゃないと分からない比喩(笑)。
篠原:(笑)ちょっと迷い込んだところがあって、そこを出て、やっぱり今作るべき物を作らなきゃいけないって。ようやく、ガッと戻ってきたっていう。
ナナ:ゼルダはやったことなくて…そういう感じなんだね。
全員:(笑)
篠原:一回わからなくなったものを、自分達なりに形にしようって頑張ったのが『Caballero』だったし、何と言うか、今出来ない事を無理にやるんじゃなくて、今出来る事をやりたいって思えて作れたのが今作の『Belle Epoque』だと思います。
●はい、今回テーマにしたのは何だったんですか?
篠原:ユーミンの『COBALT HOUR』(コバルト・アワー)です。それがめちゃデカイ。
●あれ、でも『COBALT HOUR』はリアルタイム世代じゃないですよね?
篠原:ああ、僕ミーハーなんで何でも聴きますよ。
ナナ:私も、ユーミンは元々好きで、でも『COBALT HOUR』をちゃんと聴いたのは、このアルバムを作ろうってなってからです。
●どういったきっかけだったんですか。
篠原:一番最初は、音楽的には『COBALT HOUR』みたいなのを作りたいなって思ってて。でも思ってただけじゃ中々作品は作れなくて、そういう歯車を回す力が中々…2年間足りなかった。『COBALT HOUR』は好きな曲が単純に多いっていうのもあるし、あと、バックバンドが凄いじゃないですか? 多分その影響も凄く大きくて。アルバムの音像的に特にドラムとベースの音で大きな影響をうけました。めっちゃデッドした音で、ああいう音を作ろうと思って、わざわざ天井が低いスタジオで録ったりもして。あんまり響かない感じで全部ミュートして、ドラムの音作りだけで数時間かけたりして。
●じゃあ音作りにもこだわったアルバムと。アルバムを創る上で軸になった曲は?
篠原:収録曲の中では『さよならスカイライン』と『すずらん通り』っていう曲が古くて、それが1stを作った時くらいには出来てて。最初の構想って言うか。だからこの2曲ですね。

●アルバムタイトルの『Belle Epoque』はどんな意味で付けたんですか?
篠原:良き時代っていう意味で、フランスの昔の時期を指してるんですけど、「良き時代」って懐古的に使う事が多いと思うんですけど、そういう意味合いもあって、ユーミンもそうですけど、あの時代に魅せられて作ってるっていうのでも、「良き時代」とも言えるし、気持ち的には「今」、自分たちが生きている時代とか、今自分たちがやっている事とかが、人生で一番クールだと思って、そういう意味も込めて『Belle Epoque』、良き時代って付けました。
ナナ:タイトルはレコーディングする前から決まってて、篠原さんが突然提案してきました。響きが良いって。私、言葉の意味を深く知らなくて、でも話を聞くと、今回のアルバムにぴったりだなって思って賛成しました。
篠原:今が一番良いって言いたいし。やれ「良くない時代だ」とかっていうのはずっともう、生まれた時から言われている世代だと思うんですけど(笑)。ずーっと。僕が好きなロックンローラーはずっと肯定を歌ってきていると思うし。それは僕もここで言わなくちゃいけないと思って。
●ナナさんはどうですか?
ナナ:私もどちらかと言うと、良い時代だって肯定したいのかも知れないです。自分が肯定しないと。でもあんまり、今そう言ってるのを聞かないと思うし、今、いい時代だって事を言いたかったです。
篠原:いつ生まれてても、精一杯生きてるタイミングって、人生にあると思うんで。タイミングって言うかずっとそうあるべきだし、個人的な人生に、燃える瞬間があるのは凄いかっこいい事だと僕は思うし。それを、今、僕らがどうなのかって言うと、スパークしてるのを残したいっていう感じです。
●燃えてますと。
篠原:燃えてます!
ナナ:(うなづく)

●では1曲ずつ紹介をお願いします。『さよならスカイライン』から。これがアルバムを引っ張ってくれたんですよね。
篠原:そうですね。これが一番軸になっている曲で。昔のケンメリのスカイラインのCM映像、それを見て。この話の主人公がいるんだとしたら、ちょっと歳を取ったケンメリのどっちかなんじゃないかなって。引用も多くて、木綿のハンカチーフとか、自分が子供のときに父親のカーステで流れてたなって。
●あ、実体験も入ってるんですね。
篠原:あ、引用とリアルもありますね。実体験。あと「お茶が熱くてのめません」は、田辺聖子さんの短編にあって。そういうのも入れつつ。その本を読んでもらえればまた印象が変わるんじゃないかな。で、結局何が言いたいかって言うと、「なんとかなるさ どうにかやるさ」っていうのが、今言いたい。
ナナ:うん、ここが言いたい。
●ナナさんはどんな気持ちで歌ったんですか?
ナナ:私は「お茶が熱くてのめませんと 待ってみるふり」を歌うのが毎回楽しいです。
篠原:そうなんだ(笑)。
ナナ:「待ってみるふり」が良い感じに。歌ってて楽しいです。
●あと、この曲はテーマソングになったんですよね?(日本テレビ系「NNNストレイトニュース」ウェザーテーマ 4~6月期)
篠原:ああ、そうなんです。お天気の。僕まだ生で見れてないんですけど、聴いてくれた人がいて「流れてたよ」って。
ナナ:私は一度見れました!流れてました。ありがとうございます!って。不思議な感じでしたね、自分の曲がテレビから流れてるのって。嬉しかったです。

●2曲目『ベースサイドストリート』
篠原:この『ベースサイドストリート』と『フューチュラマ』って、今回のアルバムでちょっと今までと作り方が若干変わったような気がしてて。最近自分の詞の書き方が変わってきて、結構リズムのルールに自分を縛って書いてきたんですけど、『ベースサイドストリート』は実際に福生に行って帰ってきた夜にザザザって一筆書き的に書いたんですよ。結構、そういう書き方が自分の中でしっくり来るようになってきてますね。今まではもっとこう、言葉のリズムとか、そういうこだわりがずっとあって。今もそれは変わらないんですけど、字余りみたいな物も出来る様になった(笑)。そう、ちょっと崩れてても流れで書いたほうが絶対良いんじゃないかって気がしてて。
●感情に寄った?
篠原:今の感じとしては、その方が書きやすいんですよね。「綺麗な詞」を書くことよりも、何か残る詞を書きたいというか。雑味とか、生々しさとか、そういうのも全部ひっくるめて、上手く残せる方がいいのかなって。これは福生の横田基地の通りで。ユーミンとかも歌ってた気がしますけど。
●500マイルっていうのはどこから?
篠原:500マイルって昔だったら、移動手段がそんなに無かった時代では凄い距離だったみたいで。その当時の実体験としては。昔の曲でありますよね。これは歌詞のままなんですけど、今はその先が見たいって言えるというか。それぐらい遠くに行きたいっていう。
●何か裏話的なネタはありますか?
ナナ:これは、ヤコブさんのギターが凄い好きです。間奏?
篠原:そうだ。サポートの田中ヤコブ君ていう、非常に凄いギタリストがいるんですけど、彼のギターが素晴らしくて、ギターソロが特に。何か、実験とかでペットボトルのロケットとかあるじゃないですか?あれを、飛べないのを無理やり頑張って飛ばしているようなギターソロを弾いてて。それが凄い良くて。一回止まっちゃうんですけど、意地でも月に飛ばそうとする感じでむちゃくちゃ素晴らしい。
ナナ:素晴らしい! これ、レコーディングは、歌は割りと苦しまなかった気がします。