カミナリグモ『続きのブランクペーパー』インタビュー
INTERVIEW[2015.03.20]
●ではミニアルバムの事を。2曲の軸があって、どんな6曲になりましたか?
上野:これからまた再始動する自分達にとって相応しい6曲になったのかなと。そもそも『サバイバルナイフ』と『ブランクペーパー』を軸にするっていう事は決まった時点でこれからまた新たに前進していこうっていうテーマが一つあったので。いつに無く、前向きなテーマと言うかメッセージが込められた作品になったんじゃないですかね。
成瀬:6曲の中に1曲1曲、可能性と言うか、何か色んな方向性が聴こえてくるような、そんなミニアルバムが出来たなって思って。どこも、啓示君が言ったようにマイナスイメージが無くて、凄く新しい何か希望であったりとか、やってみたいことであったり、そういう事が結構散りばめられているというか。そこまで意識はしてなかったんですけども、気分的にはそういうところがあったので、自然に現れたのかなって。
●今回挑戦したことは?
上野:まあ、まったく2人だけで音楽を作り出すっていう事自体が常に挑戦なので、色々とトラックと自分達の楽器と唄とで何が出来るんだろうっていう事を常に考えながら作業してましたね。
成瀬:そういう意味では全曲挑戦してるんですけど、っていう(笑)。そういう色々試みた事が現れてると思うし、勿論前も2人で音を作ってはいたんですけど、最終的にバンドに落とし込む為だったり。そういうわけではなくて、完成形として曲としての最終形はこれだっていう、ところで作りこむっていう、それがもう一つの正解っていう風に。特に『サバイバルナイフ』とか『ブランクペーパー』はそういうモードでの最初のほうだったので、その形で良い感じに出来たので、後の4曲はバランスも見ながら形を作っていった感じですね。
●前に話を聞いた時のことを考えると以前は「バンドの形の音」みたいな物に多少捕らわれていたと思うんですけど、今はそうじゃなく、2人で作る物の形はこれだ、っていう物に変わったって事ですね。
上野:それってセルフカバーの時の話だったと思うんですけども、あの時はあくまでもバンド編成での活動がメインで、バンドで演ってた曲を2人でリアレンジするっていう主旨だったんですよね。そこから、今は、2人だけで構築する音楽、それがカミナリグモっていうスタンスなので。前はバンドの物と良い意味で別物にしようとか同じニュアンスを残したいとか…バンドでやってる時の良さを2人でやってても伝えたいね、とか、逆にガラッと変えたいねとか。そういう考え方だったんですけど…今は単純に何もアレンジしていない楽曲を2人の形で、楽曲にとって一番良い音楽の形をみつけようっていうスタンスなので。だからもう根本的に同じ2人だけども、作品に向き合うその「向き合い方」が違うんですよね。
成瀬:4人とまた2人っていうのは違うと思うんですけど、バンドの中の2人っていうのと最初からある2人っていうと楽器としても、啓示君がボーカルギターで僕がキーボードっていう、事よりも、2人だと啓示君がボーカルギターで僕はそれ以外っていう。ある種キーボードって言うよりもサウンドクリエーター的な、そういう風な位置付けに変わるって考えたら、なんか何でも良いじゃん、っていう。前まではその、ある種職業的な部分として「そこは崩さない」っていうのはあったんですけど、楽曲として合うものを充てる部分として、時には鍵盤としては見えないことも楽曲としてOKならばそれでOK、っていう事が出来るようになったなって考えたら、今までやれてた事が出来なくなったというよりも、今までやってきた事も凄く大きな中でのやってきた事に過ぎなくて、曲によってはバンド的なアプローチをする曲もあるし。そういう風に考えれば全然問題無いんだなって思います。
●それでは曲の紹介を、『サバイバルナイフ』から。
上野:2014年始まってからずっと2人のライブでは演ってた曲っていうイメージなんですけど。丁度、ずっと憧れていたthe pillowsの25周年のトリビュートアルバムに幸運にも参加する事が出来て、その時に『開かない扉の前で』っていう曲をカバーさせていただいて、その曲に対してのアンサーソング的な曲にもなっていて、歌詞の最後に「その扉をくぐるのは僕だ」って。そういう意味ではカバーがあって、この曲があって、凄く救われたなと言うか。そして、またね、2015年、これから2人だけの形で再始動する音源にもふさわしい曲だなと思ってます。
成瀬:去年この曲でライブを回っていて、そのために一度自分達でかなり作りこんで音源を作成したのもあるんですけど、それはそれで正解だと思っていたんですけど、リリースするにあたって、勿論レコーディングもし直して細かい気になってる処もアレンジを修正したし、あとミックスは今回、初めてお願いしたエンジニアの方で。ミックスによって音がガラッと変わったなと思っていて。凄く曲の良さを引き出すために音を足してくれるエンジニアの方がいて、そういう事をやって。トラックとしてどうアプローチするかっていうのが、今まで一つの正解だと思ってた部分がまたちょっとコレもアリなんだなって凄く勉強できたなって。そういう意味でリリースで楽曲をブラッシュアップ出来た事は凄く良かったなって思います。

●『Lightning Girl』
上野:この曲は今回のリリースに当たって書き下ろした曲なんですけども、ちょっとピンときてるかも知れないんですけど、メレンゲ、が好きで…。
●あー(笑)『8月、落雷のストーリー』?
上野:そう(笑)。2人で活動していて、あらためて世界感を重視したライブとか音源制作をしたいと思っていて、その中で、僕達よりはちょっと先輩なんですけどメレンゲのライブに何回か伺う機会があって、何年か前にも対バンしてるんですけど、あらためてライブを見て、これから自分達が目指していくような空気感に、イメージしている物に近いなと思っていて。で(笑)『8月、落雷のストーリー』がライブでも凄くかっこよくて、結構ね、世界感的には似たような設定なんですけど自分達なりに、ああいう曲が作りたいなと思って書いた曲ですね。今までよりも更に楽曲の物語の中に入りやすいと言うか。ライブでも…見に来てくれた人が一つの映画を見た気分になれば良いなと思う、曲ですね。
●可愛い曲ですよね。
成瀬:うん、曲自体がファンタジックというか現実とはまたちょっと離れたところに感覚を持っていく曲っていうところもあったので、あんまり今までやったこと無かったんですけど、オーケストラアプローチと言うか。僕は結構好きなんですけど、オーケストラアプローチって、何か弾いてる人間と言うか人ってあんまり見えないじゃないですか?バンドだったら。
上野:ライブで同期させたらってことね。
成瀬:そうそう。だから今までは採用してこなかったんですけど、今回こういう形だった全然良いなと思って。ガンガン入れてそれが全部曲にあってたので良い感じになったなと。

●『漂流記』
上野:この曲は、リード曲が『サバイバルナイフ』に変わったタイミングで、そのあとに書き下ろした物で。『Lightning Girl』と『Pale Purple Sky』はそのまま元々のプランの中から残したんですけど、生っぽい曲を1曲入れたいなってところで、あとラブソングもバリエーション的に必要だなってところで、更には…今回のテーマとして「前に進んでいく」っていうところと「冒険感」みたいな物も大事にしたいと思って。それに叶う楽曲が出来たなと。だから、書き足した曲なのに凄く良い物が出来たなってあらためてソングライターとして、自信になった曲ですね。
●ああ、軸が決まってからって事はかなり短い時間で書いた曲なんですね。
上野:そう、去年の12月に書きましたね。
成瀬:俺は歌詞見たときから凄く良いなと思って、名フレーズ出さなきゃなってプレッシャーがあって苦労した覚えがありますね。最終的には良い形に出来たんですけど。だから時間が掛かったかって言ったら違うんですけど、大体プリプロ一日で詰めきったと言えば詰めきって。そのために結構何パターンもフレーズ考えて。
●凄いですね。ちょっとゴマさんの頭の中見てみたいです。一日で出来ちゃうって。
成瀬:いや、大体どの曲もいつもそんな感じなんですけど、出してきて、一日で必ず形にするっていう目標を決めてあるんで。だから形には絶対なります。
上野:そうですね。
成瀬:それがいきなり100点の形になってるかは別として、後日作り直す事もあるんですけど、それは時間内に一個正解を作っておかないと見えなくなっちゃうんで。この曲はシンプルな凄くいい曲なので逆にちょっと迷ってしまったところはありましたね。

●『丘の上のスタンリー』
上野:この曲も『漂流記』と同じようにリード曲が決まったタイミングで書き足した楽曲ですね。まあ、『漂流記』よりも更にバリエーションを意識して作った曲と言うか。マイナー調でアップテンポな曲を作りたいなと思って、しかもギターがアルペジオで。そういう出発点で作って(笑)また良い曲が出来ちゃうっていう。
●今までに無かったようなメロディラインかなと思いました。スピード感もそうですけど。
成瀬:うんうん。
上野:やっぱり、こういうギターのアルペジオの弾き方とかも、バンドでやってた時は出せなかったりしたので、これこそ2人だから出来た…アレンジもそうだし、楽曲自体もそこに、アレンジに引っ張られて行ったと言うか。2人で再現するっていう事が前提としてあった楽曲ですね。だからバンドの時にはこういう曲は作れなかったでしょうね。やっぱりより楽曲のストーリー性も強くて。さっきの『Lightning Girl』もそうですけど、より世界感を。元々世界感のあるタイプのソングライターだとは思うんですけども、2人になったことでよりそこが広がったような気がしていますね。
成瀬:なんか「スタンリー」って言葉自体が、俺の勝手なイメージなんだけどちょっとイギリスとかっぽいなと思って。中世的と言うかクラシカルな。ちょっとグレイな、白夜が見えそうな晴れそうで晴れない、そういう感じなのかなって。
上野:ちょっとタイトルも意識してみて。物語が好きなので、こう斜に構えてた主人公が最後は憧れを握り締めて走ってるっていう、それを音楽と一緒に表現することで4分くらいの時間の中で、一つのショートフィルムを作るような感覚ですね。だからミュージシャンと言うよりも作家タイプなんですよね、自分は。実際自分が受けてとして鑑賞する物も音楽よりも物語が好きなので、それがもう如実に出たような楽曲ですね。