カミナリグモ 『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』インタビュー
INTERVIEW[2013.09.10]
2人のみの音しか入っていないCDを作るのは初めて。
それを作って、2人だけでツアーをしていく。これは「2人」で作ってる事に意味がある。

最新作はメンバー2人のみで作り上げたアコースティック・セルフカバーアルバム!
CDの帯に掲げられた『耳で観る映画』というメッセージがピタリとはまる、
楽曲の情景が鮮やかに浮かび上がる作品になっている。新曲も含めた全10曲を収録。
●TOTEです、よろしくお願いします! 最新作『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』の制作はどんなところから?
上野啓示(以下 上野):これは、音源を出すというより、「ふたりグモ」(メンバー二人のみのアコースティック編成)のツアーを本格的にやろうっていう所から、そこが先に決まって。それでせっかくツアーをするんだから会場限定のアコースティックのセルフカバー音源を用意しようと思ってたんですよ。そういう話をしてるうちに、音源にするのであれば、もっと広がったほうが良いよね、って話になって。身近な人に、流通(全国販売の流通網に乗せるように)してもらえないかと相談したら、出来る事になって。本当は8月に出したかったんだけど、流通させようって思いついたのが遅かったので9月になって。ツアーは8月から始まるんですけど、夏の気配がまだある中でのリリースなら良いかなと、正式に流通させる形になって。
ghoma/成瀬篤志(以下 ゴマ):だからアルバムを作ろうとか、そういうことじゃなくて、物販用に4曲くらいのセルフカバーを作ればってところから、せっかくだし、新曲も入れて過去の会場限定音源を入れてとか言ってたら。
上野:そう、最初4曲で。でもミニアルバムにした方がいいのかなとか。
ゴマ:そうそう(笑)。どんどん話が大きくなって。
上野:流通もする事になって、せっかく流通するんだったらアルバムにした方がいいかなって(笑)。
●膨らんでいって(笑)。
上野:そう(笑)。今回のアルバムはセルフカバーの他に新曲も入ってるんですけど、新曲に関しては、流通をしようとなってからのアイデアですね。せっかくなので。だからそれから曲数も増えて、だったらアルバムにしようって。
●ちなみに最初の4曲は?
上野:『アイスグリーン』と『ローカル線』、『僕でいたいのさ』、『YAWN SONG』です。これをセルフカバーしようとして。カミナリグモの今までの作品の中には、2人で完結してるトラックは必ず収録されてたので、そういう意味ではクオリティに差が無い作品が作れるという自信もあったので。この企画を考えてたのは春先、クアトロワンマンの後で。バンドでガッツリしたツアーを演り終えて、まあツアー中はその先のことは考えてませんでしたけど、いざ終わってみて次どうしようって時に、実際バンドで大掛かりなリリースはしばらく無いのは分かっていたので、そういう中で、今自分たちで動ける事、ふたりグモでツアーをしようと。今まで単発でカフェライブをした事があって、それが結構評判が良かったのもあったので、バンドで行けないようなところも全国細かく回ろうと。
ゴマ:まあ9月とか夏の終わりくらいに回りたいって話はしてたかな。そうするとそれに似合うような物が選曲の基準になったんじゃないかな。
上野:元々『アイスグリーン』は『SCRAP SHORT SUMMER』というミニアルバムに収録されてるんですけど、自分たちの中ではアルバムの中の1曲にするには勿体無い名曲だなって思っていた中で、アンプラグドやふたりグモでもアレンジすることがあって、凄く良かったので、この曲に焦点を当てるのはもうイメージ出来てて。ツアータイトルも『REMEMBER ICEGREEN SUMMER TOUR』にしよう、って。それにあわせてアルバムタイトルも『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』にして。いつもとは逆の流れで。
ゴマ:うん。『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』の音の形は初期の段階で作っていて、それに合わせた音源を作ろうっていう。
●じゃあ『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』が今回の一連の流れを引っ張っていった?
上野:うん、そうですね。ツアーの核に『REMEMBER ICEGREEN SUMMER』があって、そこから会場限定音源、流通音源へ変わって。
ゴマ:あと、『アイスグリーン』は元々バンドでやってたし、バンドの音と2人で演る『アイスグリーン』にはまた違った魅力があるのかなって。要はそれってバンドだろうがふたりグモの形だろうが、曲の魅力っていう処で楽しめるなと思いましたね。
上野:前作まではほぼ固定のメンバーで3枚、バンドの形でリリースしてきたけど、それとは全く別のベクトルと言うか。自分達の中の位置付けとしては違うバンドとして出してるので、前のアルバムに続くオリジナルアルバムというよりは、企画物のセルフカバーのアコースティックのアルバムという形です。だから自分達の気分も全く違っているし。一つは新しいことにチャレンジしているというか。2人のみの音しか入っていないCDを作るのは初めてなので。それを作って、2人だけでツアーをしていくっていう、本当に違うバンドの気分ですね。勿論、楽曲的にはセルフカバーなので今までの延長にあるんですけど。
ゴマ:まあ、バンドで出来ることと2人で出来ることって違うので。今まではアルバムの中に1曲2曲入っていたように、「こういう事も出来ます」っていう形で見せていた物を、結構根を詰めてやってみようかなって。本当にちょっと新しいことに取り組んでる感じです。
●じゃあゴマさんの頑張りが炸裂した…。
ゴマ:あはは(笑)。頑張りは啓示君と同じですよ。
上野:でも僕がシンプルなことしかしないので、より、ゴマちゃんの表現が。
ゴマ:まあ表現の手法は変えるし、元々アコースティックな物も好きだし。ただ見せ方を変えるのを考えてはいますね。
●そう、アコースティックというよりはアコ風味というか、音的にはバラエティに富んでますよね。
ゴマ:あ、そうですよね(笑)。
上野:ああ、分かりやすくアコースティックって言葉を使ってますけど、エレキギターも使ってるし。打ち込みも多用してるし。
●想像よりもカラフルと言うか。
ゴマ:ただ、機軸は、ギターとピアノで成立するんですよね。
上野:そう、「2人」で作ってる事に意味があって。
ゴマ:2人で成立するっていう。
●じゃあこだわりは「2人で出来る事」という?
上野:そうですね。
ゴマ:だから打ち込みとかいっぱい入ってますけど、そこが主役にならないと言うか。同じ曲を違う間口でセルフカバーする事で、やっぱり曲の違う方向の魅力って出てくるし。より、曲の言っている事が分かるなって、作りながら思いましたね。こういう解釈ならこの音を入れてみようかな、とか。本当、面白かったです。
●では1曲ずつ収録曲のコメントをお願いします。

■M1.アイスグリーン -REMEMBER THE SUMMER Ver.-
●この曲から始まったんですね。
上野:うん、全ての核になった楽曲ですね。この曲の風景として、屋上から見える工場地帯から吐き出される煙っていう描写があるんですけど、その工場をイメージさせる金属音とかも上手く表現されてるなと思って。実はこの工場の風景っていうのは、僕の実家が大阪の高石市という小さな町で、埋立地に臨海工業地帯が広がってて。小学校の時に屋上から工業地帯を見ることが出来て、その景色もこの歌詞の中には自分の体験からリンクしてるのがあったのかなって。
ゴマ:工業地帯っていつも煙が立ってて、ちょっと空が若干霞んでるというか。
●光化学スモッグ的な。
上野:本当にうちの実家は光化学スモッグの名所というか(笑)。
ゴマ:ああ、そうなんだ(笑)。
上野:あのアナウンスを聞くと、ノスタルジックな気持ちになる(笑)。
●『SCRAP SHORT SUMMER』のバージョンよりもせつない感じがします。
上野:より歌詞の世界に焦点が行く感じになってますよね。
●やっぱり「耳で観る映画」っていうのは今回全編に意識して?
ゴマ:正にそうですね。一番のテンプレートは2人で、ギターとピアノでライブでやっていた形が原型にはなるんですけど…そこからちゃんと音源にするにあたって、打ち込みが無い状態だと曲の情景が浮かびにくいんで、音を足して。この曲って風が吹いているイメージがあるなと思って、音を聴いて眼で感じられるように、一個一個ストーリー性を重視して音を入れていきました。

■M2.バスと占い師 -REMEMBER THE SUMMER Ver.-
●凄く可愛い仕上がりですね。きゅんとしますね。
ゴマ:お、可愛いですよね。占い師って言うのが良いし、バスって言ってもリアリティがあるバスを想像しないって言うか。別にメルヘンチックなバスじゃないけど(笑)。
上野:設定は高速バスなんだけどね(笑)。
ゴマ:そう、パーキングってあるしね。
上野:この曲は、結構初期にあった曲で『夕立のにおい』のシングルのカップリングになってました。楽曲の評判も良くてライブでもたびたび演ってたんですけど、『夕立のにおい』がもう手に入らなくなってて。
●ああ、ソールドアウトになってますよね。
上野:なので、こうやって再録して入れるっていうのにも意味があるかなっていうのが選曲の一つの理由ですね。
●元々のリリースが2009年ですね。楽曲としてはもっと前からの?
上野:うーん、ゴマちゃんと毎月曲をプリプロをするっていう事を一時やってて、その時にあったから。いつ頃だっけ?
ゴマ:その頃は俺がまだ松本に居た頃だね。
上野:リリースの3年位前かな。僕が25歳くらいの。歌詞のつじつまとか、よく出来てるなって。これこそ本当に映画のワンシーンと言うか、そういう世界観になってますね。
ゴマ:段々移動していく感じがね、情景が浮かびますね。

■M3.ローカル線 -REMEMBER THE SUMMER Ver.-
上野:ふたりグモではこのバージョンの『ローカル線』は定番になってて、凄く評判が良くて。実は去年の『王様のミサイル』シングルリリースの時、タワーレコード特典として一度音源になってるんですね。今回はそれに更に音を加えてミックスも変えて、ガラっと違う音色で作ったので、特典を持ってる人にも楽しんでもらえるんじゃないかな。
●じゃあ、人によっては3パターンで楽しめるんですね。
上野:そうですね。よりキャッチーというか、音数が少なくなって、物語りが浮かんできやすいような音作りになってますね。
ゴマ:あと、俺がカミナリグモとは別に、電車の音を録る機会があったんですよ。車両によってブレーキの音もガタンゴトンって音も違って、沿線によっても違って。その中で都心から離れた線の音を録った時に、凄く『ローカル線』とリンクして、この音を使いたいなと思って。ガタンゴトンって音とか発進する音とかを入れてるんですけど、そこは全部実際の音を使ってます。録ってきた音を加工して。
●おー。サンプルの音じゃなくて実際の録音なんですね。凄い。
ゴマ:発車の音も、たまたま調が『ローカル線』の調とあってたんですよ、キーが。それ聴いた時に合ってるなって。これ使えるなって思って。
上野:じゃあそのままなんだ。
ゴマ:うん。リンクするなって。たまたまだけど。

■M4.エイプリルフール
●これはライブの特典でしたね。
上野:そうですね。10周年の渋谷クアトロワンマンの特典音源としてプレゼントした音源。曲自体は20代前半の時にあったのかな。歌詞のフレーズの中で、「4月の日曜日」ってあるんですけど、その日曜日が4月1日エイプリルフールっていう設定で、嘘でもいいから晴れてくれないかなって。そういう曲なんですけど、ちょうど、このクアトロワンマンの時に、4月1日が日曜日だったんです。その年は。
●おー!
上野:ライブ一ヶ月前の3月くらいからMVも公開して、凄く好評だった楽曲ですね。あらためてセルフカバー以外の曲も入れようって時に、この曲もって。アルバムタイトルとはリンクしませんけど、こういうアルバムなので、季節が作品の中で行き来してるのも面白いかなって、収録する事になりました。
ゴマ:あとは、特典の季節に合った時に聴く物と、今回アルバムの中の1曲として違う季節に聴くのと、別の魅力があるなって、自分達でもあらためて思いましたね。
●明るくて可愛いけど、せつないですね。
上野:うん。根本にある孤独感とか、その中で前進していこうっていう感じは、サウンドのアレンジは別としてあるので。こういう形の音源の方が明確になるんでしょうね。

■M5.ブックマーク -REMEMBER THE SUMMER Ver.-
上野:この曲は、一番最後の最後に収録しようって決まった楽曲で。
ゴマ:そうだね。結構あとだね。
上野:他の曲も録り終わって、
ゴマ:ミックスの途中とかだったよ。
上野:9曲は揃ってて、せっかくだから10曲にしない?って処で(笑)。
●確かに9だとキリが(笑)。
ゴマ:そうそう(笑)。
上野:それで、あまり大げさな曲じゃない方が良いなって。他の曲とのバランス的にも、インターバル的なニュアンスで。最初はインストを新曲で作って入れようかと思ってたんだけど。セルフカバーするのにCDの裏面をバーッと並べて(笑)見た中で『ブックマーク』が眼に止まって、これだ!って。2分くらいの短い曲なんですけど、インターバル的にもちょうど良いし。元々これはアコースティックな指弾きの曲なんですね。その上でアレンジを変えるにあたって、エレキギターで、「今のカミナリグモがトラックで作ったらこうなるんじゃないか」って事で。しかもキーも低くして、地声で張れるような感じに。元々はファルセットの曲だったんだけど。ミックスしてる時に、いきなりゴマちゃんに「あと一曲『ブックマーク』はどう?」って。
ゴマ:そうそう(笑)。ちょうど曲順もどうしようかって時で、これがあったら良い流れになるねって。
上野:ちょうどつじつまが合ったね。
ゴマ:アレンジもちょっとゴリっとした感じになってて。啓示君がエレキギター弾いてるっていう処もあるんだけど。
●レコードで言うとここで裏返すみたいな。
ゴマ:そうそう。ちょうどブックマークをつける、みたいな(笑)。ここから始めよう、聴きなおそうって。『僕でいたいのさ』も『YAWN SONG』も割とシリアスなところなので、前半の曲の感じから急にそこに行くには耳がちょっと。
●ああ、そういう意味でもちょうど良い処にこの曲が。
ゴマ:そうそう。だからストーリーが進んでいく感じを楽しんでほしいなと。