a flood of circle 『I’M FREE』佐々木亮介インタビュー 【後編】
INTERVIEW[2013.07.17]
■All The Young Rock'N'Rollers
●ここでインストが入って。ロック…。
佐々木:はい。今回どんだけ「ロック」って言うんだ?って(笑)。これは最初普通に曲があって、AメロBメロサビって感じであって、最後に録音したんですけど、色々ずらっと出来上がった後にあの曲インストにした方がカッコイイんじゃない?って。もっとシンプルな曲だったんだけど思いっきりサーフロックに寄せてみて。
●サーフロックにしてはギラギラしてますけどね(笑)。
佐々木:ははは(笑)。あのフレーズだけですけどね(笑)。凄くシンプルな言葉じゃないですか?「All The Young Rock'N'Rollers」、前にForってつけて、全ての若きロックンローラー達へ。結構歌詞をグワーって書いてる曲が多かったんですけど、シンプルなロックンロールを一個ねじ込んでおきたかったっていう感じです。
●はい。私は勝手に若いロッカー達に、これぐらいやってみろー!みたいな曲なのかと思っちゃいました(笑)。
佐々木:わははは(笑)それもちょっとありますけど(笑)。俺はお客さん含めロックンローラーだと思ってるんで、さっきも言った諦めがちな20代とかに、諦めの悪い男としては(笑)もっと転がってもいいんじゃない?っていう。『見るまえに跳べ』と同じで後悔どうこうより転がってみちゃえよって。
●ある意味めちゃくちゃ前向きですよね。
佐々木:そうですね(笑)。上手く行くか心配な時はとりあえず飛び込んできた、バンドが。経験上、やっと言える。

■The Future Is Mine
佐々木:ディレクターのM澤氏もお気に入りの曲です(笑)。
●お(笑)。資料にはロシアの隕石の件が書いてありましたけど、そうすると結構最近の曲?
佐々木:そうですね、ツアー終わったくらい。これは『I'M FREE』書いた直後だったんで、シンプルな曲が作りたいなって。その反動がありますね。サビはこの一言だけっていうやつを。
●アッパーで、開けた感覚があって。この曲が生まれた背景には何があるのかなと。
佐々木:ギタリスト的にコードをプラスにするのが結構好きなんですよ。タイトル的にもコードも凄くシンプルになってて、イントロとかもめっちゃ簡単なんですよ。前はそれを恥ずかしがって出来なかったのかな。かっこつけちゃうって言うか、ちょっと複雑な響きにしたいとか。それをあえてしないで、今回やっと作れた。
●それは意識して?自然に?
佐々木:あー意識はしてたかな。そういうシンプルなロックンロールを作りたいって。だから「まだ遅くはないぜ」って感覚はあって、そんなの初期衝動でやればいいことじゃないですか?シンプルなものって。でも遅れてきた反抗期なんで(笑)。今やっとそれが出来る様になったんですよ。『The Future Is Mine』っていうタイトルで、でも全部「君の目に映ってる物」を俺の未来って言ってるから、「Mine」って書いてても、君と俺と、お互い共有できる物を未来だと呼びたい。だから「二人」って書いてるんです。
●タイトル見たときに、世界は俺の物みたいなイメージだったんですよね。
佐々木:んー。当初は「手渡そう」って感覚だったんですけど、これは君の目に映る物を俺の物と呼ぶみたいな、共有してる、一緒の物として伝えたい感覚で。それはライブの中で培われた気持ちなんですけど。間にあるものってなんなのかな?って。ライブで音を出して届けてるんですけど…その場だけの物じゃなくて、俺らのライブは悩みながらでも来て、踊って、聴いた後でガーッとテンション上がったり、スゲー無敵な気分になって帰って欲しいから。続いていくもんだと思ってるし、一瞬鳴らして終わりになる音じゃないものを考えた時に、「The Future Is Mine」って出てきた。
●じゃあそのワードから全部広がった。
佐々木:そうですね。今回タイトルから出来た曲ばっかなんですよ。『ロックンロールバンド』も『I'M FREE』もそうだし。何となくまだ言葉に出来てないけど、これを伝えたいとか、やりたいとか、これを今歌わなくちゃいけないんじゃないかっていう感覚にまず名前を付けて。そこからですね。

■オーロラソング
佐々木:これは一応ラブソングのつもりで書いたんですけど。
●いや、完璧にラブソングですよね(笑)。
佐々木:ははは(笑)。これ普段の生活でもピアノ弾いてみたいとか油絵始めたいとか、そういうレベルの「やってみたい事」っていっぱいあると思うんですけど、「やってみたい」って言ってる人ってこれ死ぬまでやんないんじゃねえかなって気がして(笑)。
●興味はあるけど、手は出さない(笑)。言ってみる系の。
佐々木:そうそう。だから本当にやりたい事とか、やらずにいられない事しか出来ないんじゃないかなって。最近、俺、皆に飽きられるぐらい言ってるんですけど、「やらずにいられない事をやるしかないんだ」って。だからその気持ちが凄くあって。ラブソングなんだけど、実はそっちの気持ちの方がデカイ、強い。だから後ろの「一生かけても~」の歌詞のところが凄く気に入ってますね。
●ああ、結構ディープな事も言ってるけど、未来の、「先の」話をしてて。本当にタフになったなと。
佐々木:未来の事を考えるために、「今」だよって。「君は今を生きてるじゃんか」で終われたのが良かったと思いますね。
●重すぎも無く、軽すぎない、そしてリアルな感じの。
佐々木:俺も、新宿の歌ばっかになっちゃったなって(笑)。
●あはは(笑)新宿。そこも佐々木亮介のリアルですね(笑)。
佐々木:そう(笑)。実は前に四日市にライブに行った時に、プラネタリウムがあって、オーロラ特集をしてて、その時に思いついた曲(笑)。この「イエローナイフ」がオーロラの観光地として紹介されてて、カップルだらけだったんで皆「行きたいな」とか聞こえてきて、でも本当に行く人はどんぐらい居るのかなって思って。まあ俺は一人だったんですけどね。革ジャンで(笑)。
●革ジャンで(笑)。鉄琴の音が良いですね。最初トライアングルかと思ったけど。
佐々木:鉄琴、めっちゃ楽しくて。「オーロラ」だから音のイメージで高い音を入れたくて。最初ギターで頑張ってみたんですけど、何か違うなって。楽器屋の子供用、教育楽器売り場みたいなところに行って、何でこの人こんなコーナーにいるのかなって目で見られながら、子供にまみれて鉄琴を叩いてた。革ジャンで。
●革ジャンで(笑)。ライブでも鉄琴みれたりします?
佐々木:ね、出来るかな(笑)。出来たら面白いけど。楽器のセレクトも、メッセージと言うか歌詞がハッキリしてたから、これ入れたら誤解されるかなとかチャラいかなとか、全く思わなくて。前はきっと怖くて出来なかったんですよね。ストリングスもホーンも、鉄琴入れたりも。他の楽器を入れる事によって、バンドがずれちゃうんじゃないかって。今思うと、そんなこと思わなくても良かったような事を妙に怯えてたんですよね。うん、これは凄い気に入ってる曲です。歌ってても楽しくて、家でギター持ってても自分で歌っちゃうくらい。メロディが自然に出てきた曲だったんで。ナベちゃんにパッと聴かしてすぐ録っちゃった感じ。

■Blues Never Die (ブルースは二度死ぬ)
●来ましたね。やりたい事やっちゃった感じ(笑)。
佐々木:ははは(笑)。これはもうブルースを精神的な意味じゃなくて音楽的な意味でのブルースを新しい形でやるには何が良いかなって探して。アコギをくい気味にアンプに突っ込んで、歪みのペダルを入れてスライドで弾いてて。だからこれ全部アコギなんですよ。
●えっ。そうなんだ。全編アコギで。最初に入ってる音は?
佐々木:ど頭?オサムさんですね。この曲は、ナベちゃんのドラムも一回叩いて、それを切ってループさせてるんですよ。打ち込みっぽいドラムにしようって。それも結構チャレンジだったんだけど、オサムさんもそういうの好きだから乗ってきて(笑)。色々エフェクトぶっ込んだり、そういう遊び心がど頭に入っちゃった(笑)。逆再生っぽい。
●この曲はどういったところから書こうと思ったんですか?
佐々木:この曲もタイトルからですね。真ん中のブロックの「ブルースなんか歌いたくない」ってところが(笑)デカくて。怒りとかネガティブな物をポジティブに変換していくって作業を繰り返してるなって気付いた時に、ネガティブな事が無かったらブルースなんて歌わなくていいじゃんって(笑)。ブルースなんて無いほうが世の中平和だってことだよなって。
●あー、歌詞まんまですね。
佐々木:うん、まんまなんですけど。そっから思った事をバーッと書いて。あと昔のブルースを今聴くと、大体、恋愛でモメた事か、あの娘が出てったっていう憂鬱か、仕事が上手くいかねぇっていう。そういう憂鬱ばっかり。で、今2013年俺が見える景色を、歌詞のテーマにして1番2番で書いて。
●真ん中の転調してる処がどブルース?
佐々木:そう、そこまでは色々実験しようと思ってて、ギターのフレーズとか歌詞の内容とかで今のブルースなりの回答を出したつもりなんですけど、まだ死んでないから!って真ん中にどブルースを突っ込んだんですよね。皆ピンと来ないと思うけど、マジック・サムの『Sweet Home Chicago』って有名なブルースがあって、それのめっちゃオマージュ。怒られても良いぐらいのオマージュしてます。これも結構バンドとしてのテーマは変わってないよっていうのが言いたかった。
●あと、「ナポリを見て死ね」っていう格言を20代の若者が出してきたのにちょっとビックリしましたね(笑)。
佐々木:あははは(笑)。それは『Blues Never Die』が、「巨人軍は永久に不滅です」みたいなポジティブな物じゃなくて、「死んでも死に切れない、俺は」っていう意味があるから。
●はい。最後に今のモードに戻って、止めらんないと、決意表明その2みたいな。
佐々木:俺にとって、自分の感覚の中でアップデート出来ないと悔しいし、そんなに音楽的に分析されなくてもいいんだけど、ライブのお客さんとかCDの売り上げとか上がらないと悔しいじゃないですか?もっとデカくなれる、そういう悔しさが残ってる曲、ただの僻みとか嫌味じゃなくて。

■God Speed You Baby
●この曲はどんなところから書こうと?
佐々木:これは、気仙沼のサンマフェスティバルっていう、サンマを1500匹くらいタダで配るイベントがあって、細美さん(the HIATUS)と、撃鉄とか、何人が出てて。思いっきり港の目の前で市場の駐車場とかで、まだ倒れたまんまの電柱もある中で。気仙沼ってそんなに交通の便が良い所じゃないって行ってみて初めて分かったんですけど、それで地元の人が多いから、家族連れもいっぱい来てて。勿論サンマ目当てとかライブ目当ての人もいっぱい居るんですけど。ある家族連れに出会って、お父さんお母さんと兄ちゃん妹の4人家族、妹はまだ小ちゃかったからお父さんがだっこしてて。お父さんとお母さんは細美さんの大ファンみたいで、始まったら前のほうに行っちゃってて。俺は端っこの方で細美さんスゲーなってライブを観てたんですけど、ポツンと男の子が一人居て、彼と凄く仲良くなった。彼は仮設住宅に住んでるんだけど、音楽にはあんまり興味が無くて(笑)、お祭りっぽいから来ちゃったくらいの感じで。「今、お母さんあそこ(前)に居るんだよ」って言われて、「あの暴れてる人!?」みたいな(笑)。
●おかんカッケー(笑)。その子とのエピソードなんですね。
佐々木:そう、「俺は興味無いんだよね」って言いながら、俺に「(音楽とか)よく分かんないけど、来てくれて嬉しい」って言ってくれたのが凄く衝撃的で、こいつカッコイイなって。俺もばあちゃんが仙台に住んでて…比べる事じゃないんですけど、それぞれに色んな苦労があるから、どう感じるかもどう対処しなきゃいけないかもそれぞれのレベルであるから、それぞれ違うんだけど、それでも音楽を楽しもうと思って来てくれる人が居て、それに連れて来られた子供が、音楽に興味無いんだけど「ありがとう」って言ってくれる、その感じ。凄いなって。ほんと言葉に出来なかったですね。そん時、彼に良い事なんか一つも言えないで、ただ俺が感激しちゃったんです。それでこう、何か偉そうに返すってワケじゃないんですけど、このありがとうって気持ちを簡単に返す事は出来ないんだけど、少なくともロックンロールバンドとして、彼がいつか大人になって音楽が好きになってくれたら…そうなってくれたら嬉しいんですけど、その「いつか」の為に曲をひとつ書きたいなって。「God Speed You」って旅先の幸運を祈るっていう意味なんですけど、彼と出会った時に思いついて。でもバラードは書きたくなかったんです。彼はここからどんどんデカくなっていくわけだし。だからカッチョイイ曲を書いてあげたいじゃないですか(笑)。昔だったら泣きメロを書いちゃったかも知れないところを、強い曲を書きたいって。速くてガッツがあって、気合いが入りそうな展開にしようっていうのだけは決めてて。もし、彼と次に会った時に、涙を流すんじゃなく、拳握れるっていう感じが良いかなって。
●はい。色んな事を分かってて、でも言い切る強さが凄く良いです。
佐々木:今、決めなきゃって。今やんなきゃって言うのはすごくあるから。