COLUMN[2015.05.13]
Bad Kitty Nap
Vol.2 2015/5/13
こんにちはおおくぼです
先月は自己紹介で終わってしまいましたので今回からはネコの事についていろいろ書こうと思っています。
当初は豆知識みたいなことをいろいろ書こうと思っていましたが、それは後にして、ぼくが大学生の時に初めて飼う事になったネコにまつわる話を書いてみることにしました。

タイトルは ~さっちんの猫~

「不思議なこともあるものだな」っていう事はネコといると多々ある訳ですが、これもまたそんな類いの話です。

第一章「夜逃げ」 僕が大学1年の時にアルバイトをしていた飲食店 「ハウス」 で出会ったさっちんは当時24才でちょっとヤンキーぽい茶髪でタバコをよく吸う姉御肌の女性だった。
さっちんはどうにも男運が悪いようで、その時につきあっていた年上の男から暴力を受けていたようだ。 ある日「ハウス」のバイト仲間の男3人がゴソゴソと相談をしていたので近寄っていって 「どうしたの?」 と聞くと今日の夜さっちんを連れて暴力男から逃げると言う。
「まじかー・・」 そう言って僕もその夜バイトが終わるとみんなで集まって、さっちんのアパートの前に向かい、男がいない隙をついて室内に潜入した。 「いそごう 男が帰ってきたらまずい」 僕らはさっちんの必要なだけの荷物を抱えると一目散に逃げ出した。 車も使わないような簡単な夜逃げだったけれど、大学生になったばかりの僕は大人の世界の刺激にすこし興奮したのを覚えている。 さっちんは男に「ハウス」で働いていることは知らせていなかったのでその後、店に現れることはなかったし新しいアパートを見つけ自由を手にしたさっちんはその日以降楽しそうに働いていた。
そんなある日、店を閉めるとぼくはさっちんに誘われてアパートにあそびに行くことになった。季節は夏。少し陽が上り始め、外は明るくなっていた。 さっちんはアパートの中にぼくを招き入れるとタバコに火をつけてフーッと息を吐き 「あーあ、今日も疲れたね」と言って缶コーヒーを一口飲んだ。 すると向こうからトコトコと猫がやってきて、さっちんに頭をすりよせてきた。 「あれ?さっちんの猫? 飼ってるんだ?」 まん丸の真っ青な目をしたかわいいネコだ。 さっちんは「そうなんだよね」 とだけ言うとまたフッーと煙を吐き出した。 そして、すりすりしている猫のあたまの上にタバコを持ってくると、ひとつの迷いもなく灰をぽん と落とした。 猫はシャーっといって逃げてしまった。 「ちょっとさっちん!何やってんの!大丈夫なの?猫にあんなことさ、、」 「大丈夫なんだよ、、 あーーーあ  疲れたね。。」 と言いいながら タバコを消すと唐突に 「ワタシさ来月に3日間くらい旅行いくんだけど、猫預かってくれない?」 と言う。 「え、ネコ?おれ飼ったことないよ」 という僕に 「大丈夫だよ ただ家に入れておいてくれればいいんだから」  とさっちんは言うので 「そっか、まあ3日くらいなら」 と答えて、来月に3日間だけ猫を預かることが決まった。
第二章「刑務所からやって来た男」 それから数日後、刑務所から出て来たばかりだという男の客が「ハウス」に来た。 頭は角刈り、年は20代後半くらいだろうか。 僕に話しかけてくるので適当に世間話のように接客をしていると、ポケットから紙切れを1枚出した。 よく分からないが、それは出所の証明書のようなものらしい。 自慢気に、やっと出て来たぜっ という。 バイトのみんなはめんどくさがったが、しゃべり相手が欲しいようで翌日もその翌日も○○刑務所から出て来たばかりだというその男は毎日「ハウス」に通ってくるようになった。 「ハウス」は昼に開店すると深夜遅くまで営業をしている店で昼の時間帯はサラリーマンや学生、夜になると一杯飲んでからやってくるような客の多い店だった。 店内は狭く、カウンターに8席と大人3人が囲めるようなサイズの小さなテーブル席がひとつ。 店はぼくらアルバイトだけで2~3人で回す。 バイトだけでやっているくらいなので料理は大してうまくもない。安さだけが売りだ。 仕事の内容はカウンター内で注文を受けた料理を作って出し、会計になると表のレジに出るといった具合だ。 ある晩遅く  そろそろ店も終わる時間にさしかかった頃に刑務所あがりのその男はまたやって来た。 店内には片付けをしているバイトの僕、カウンター席の端に中年を過ぎたガタイのいい男客がひとり静かにビールを飲んでいた。 ムショあがり男もカウンターに座るといつも通りビールを注文する。 そのすぐ後に若いサラリーマン風の4~5人の酔っぱらいが入ってきた。 酔っぱらい達はかなり飲んでいたようで大騒ぎだった。 すると ムショは 「おい! うるすええ んだよ! この野郎 外で騒げ!」 と怒鳴り声を上げた。 酔っぱらいも 応戦する 「ああ?? なんだこのやろう」 ムショ「あ? なんだおまえら やんのかこのやろう」 僕(困ったな。。どうしよ、、) 酔っぱらい「うるせえんだよ このバーカ」 その言葉を聞いた瞬間、ムショはすくっと立上がり、スタスタスタと僕のいるカウンターの中に入ってくると迷わずまな板の上にあった包丁をつかんだ。 「ちょっと! まずいですよ あぶないから!」 と言ってぼくは後ろからムショを羽交い締めにした 怖かったけど、逃げるよりも止めなきゃいけない! 何故かそんな気持ちが勝っていた。 しかし男は後ろから押さえるぼくをはじき飛ばそうと必死に暴れる 右手には包丁だ はっきり言ってかなり危ない。 「ちょっとまずいですって! やめましょう!」 「うるせえ おれはなあ、◯◯刑務所から出て来たばかりなんだよ! 一人やっても何人やっても一緒なんだよ! 放せこのやろう! 」 と、その時であった。 静かにひとりビールを飲んでいた、ガタイのいい中年を過ぎた男が低く、しかし、よく通る声でつぶやいた。 「おい静かにしろ」 ムショ「あ??!! なんだ?! このやろう おまえもやられてえのか?」 ムショはまだ包丁を片手に興奮状態だ するとガタイのいい男は 「おい 若いの、これに免じてあいつらを許してやってくれ」 と言う。  んん?? と思った次の瞬間 その男はジャケットを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外しながら自分の背中をぐい とこちらに見せてきた。 それはちょうど、テレビで見る遠山の金さんのようだった。そしてその背中には入れ墨が入っているようだった。 僕の角度からはよく見えない。 ムショの動きが止まった 「え、、 大谷さん、、大谷さん 、、 じゃ な、、いっすか?」
その背には分かる人には分かる “何か” が入っていたようだった。 大谷さんは「ああそうだよ」と言うと 今度は酔っぱらい達に向かって 「さあお前たちはもう帰りな」 と言って彼らを帰らせてしまうとシャツのボタンをパチパチと止め直し、ジャケットを左脇に抱え、立ち上がってお代を置くと 「ごちそうさん」 と言って店を出て行ってしまった。 ムショもすぐさま包丁を手放すと 「大谷さーーん!!!」 とその後を追った。 店には僕だけが残された。 ムショはお代を払わなかった。 立て替えなきゃ。。くそ・・
第三章「ムショからの手紙」 そんな騒ぎのしばらく後、ムショは久しぶりにやって来た 「おいあの茶髪の女はどうした?」 「え? (あ、さっちんのことかな、、) 今日は休みです」 「あいつ、男はいるのか?」 「さっちんですか? 男は、、いません」 と答えると 「そうか、、」 とだけ言って注文もせずに帰ってしまった。
翌日ムショはまたやって来て 「あの女に渡してくれ」 といって僕に手紙を差し出した。 それは紛れもない、さっちんに宛てたラブレターであった。 つづく
文と絵 おおくぼcatひでたか
ちょっと長くなるため何度かに分けてお送りします。 また次回もよろしくお願いします。 ~お知らせ~ tobaccojuice企画 ツーマンライブイベント「二つの三日月」 東京吉祥寺スターパインズカフェにて隔月開催決定。 第一夜 6/20(土)ゲスト:PHONOTONES http://www.tobaccojuice.info/
おおくぼひでたか
東京都在住 74年生まれ AB型
ぬいぐるみ作者、tobaccojuiceのギタリスト
古着や帆布、フェルトを主に使ったカラフルなどうぶつぬいぐるみを制作。
ワークショップを各地で多数開催し新宿伊勢丹、銀座三越など大手百貨店での販売も好評を得る。
著作
『どうぶつぬいぐるみ
~ちょっと不思議なかわいい世界~』文化出版局
ネコを溺愛し、手作りフードで飼育中、ときに悩む。

・http://monacos.info/

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